特集2/ケーススタディ

性能を見極めた部材

 もうひとつはこの架構を覆い、あるいは架構に組み込まれた部材である。屋根、外壁、そして室内の床、壁、天井、どの部分を構成する部材をとっても、他を圧するような強い存在はない。すべてが適度なバランスをもって、また二次、三次というような序列づけが明快になされたうえで配されている。部材のそれぞれは、部品であることが明確に意識されていて、シーリングを多用してぐずぐずとどこまでもつながっていくのではなく、明瞭に区分され、接続され、取り付けられ、できれば脱着可能であることが目指されている。
 一例を挙げるとプラスチックグレーチング。これをルーバー、庇、内扉、テラス、床という具合に、内外の区別、部位を問わずに使用している。すべてが脱着可能。そもそもは床用に開発された素材が、使用する部位に要求される性能を有していると判断されれば、前例にとらわれずに使われている。
 素材としてすべて市場でふつうに流通しているものだが、それらの選択、組み合わせ、使用法、仕上げは慣習的というには遠い。たとえば居間・食堂の天井に用いられた大きなキャンバス張りは、画材店に特注したもので、竣工17年後の今日までそのまま用いられている。ガラスの開口部にはアメリカ製の木製サッシが採用されている。標準的な規格の廉価な製品。木の枠にアルミを被せ、断熱性と耐候性をそれぞれに担わせるという合理。ペアガラスをすべて強化ガラスにして安全性を確保するという割り切り。野沢さんはそれが気に入って決断したそうだが、小さな輸入会社のカタログを調べて決断したという大胆さには驚く。スペックを解し、信頼するという能力なくしてはできないことであり、それができる人にとっては、大胆でもなんでもないことなのだろう。
 この木製サッシは最近になってスウェーデン製の木製サッシに取り替えられた。ガラスはトリプルで、断熱性能はさらに上がったという。取り替えた部分は塗装を赤として、他の部分とはっきり区別しているのも、架構と皮膜を明瞭に区別し、皮膜を構成する部品を交換しながら長く使いつづけるという考え方の表現だが、それがわざとらしい見栄えになっておらず、不思議なくらい自然である。

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