藤本壮介の「T house(以下Tハウス)」(2005)について、3年前、春の号(『TOTO通信』06年春号)で書いた。今度は〈house N(以下ハウスN)〉である。
Tハウスを見たとき、よく練られた斬新な平面計画と合板を多用した構造とその表現(インテリア)に感銘を受ける一方、外観というものへのあまりの無頓着さを批判的に指摘した。
そんなことがあってから、藤本の仕事に注意を払っていると、「final wooden house(以下モクバン)」(08)、〈ハウスN〉、「東京ガスのSUMIKA Project(以下スミカプロジェクト)」と、このところ立てつづけに新作が現れたが、〈ハウスN〉とスミカプロジェクトは私の中の藤本イメージからズレていた。「伊達の援護寮」(03)、Tハウス、モクバンにせよ、家型を使ったり、不定形平面だったり、木の味を前面に出したりしていたのに、〈ハウスN〉とスミカプロジェクトの2作はホワイトキューブなのである。1920年代にバウハウスが打ち出して以来の、由緒深いというか手アカまみれというか、そんなホワイトキューブをどうして藤本は今さらわざわざやるのか、その点が解せない。
大分のありふれた住宅地の、道筋がわずかにズレたその角に〈ハウスN〉はあった。わずかにズレた分だけ道に露出し、目立つが、これが新しく試みたと言っていた外観なのか。白い四角な箱が角に置いてあって、デカイ四角な穴があいているだけ。開口の位置と形状は窓のようだがガラスがはまっておらず、珍しい外観とはいえるが、何をやりたいのかが伝わってこない。
伊東豊雄が、〈ハウスN〉とスミカプロジェクトについて、「概念的すぎる」と批判していたが、四角な箱に穴をあけるというコンセプトがそのまま形になった感はいなめない。ちょっと心配になる。藤本のウリともいうべき室内もこんなだったらどうしよう。