耽美性あふれるホテルデザイン

 フランスでカジノを併設した高級ホテルも展開しているルシアン・バリエール・グループが、パリの老舗レストラン「フーケ」の隣にその名を冠したホテルをつくっている。凱旋門近く、シャンゼリゼでジョルジュ・サンク通りに面しているところだからすばらしい立地。エデュアール・フランソワの設計だがインテリアデザインはジャック・ガルシア(*)。「オテル・コスト」などのデザインで有名である。
 やはり全体に耽美的。高級感とソフィスティケーションむんむんだが、パブリックのインテリアを見てみると、ロビーなど明るいときだと外光が入りすぎて、ややおとなしく見える。金色の装飾や家具は暗いところで見るとドキリとするものだが……。フロント・レセプションのカウンター腰壁は内照式のガラスを使ったクリスタルなデザイン。ラウンジチェアのバックは奔放なデザインでにんまり。
 ゲストルーム107室のうち40室がスイート、最小で1室40㎡というからそんなに大きくはない。「グランド・スイート・ド・パリ」はテラス付きで535㎡もあるとか。
 ルームナンバーはドア下部に真鍮の大型文字をリベットで止めたデザイン。キーはカードで、ドア枠の外側でかざすだけという非接触型。
 この部屋は入ってすぐトイレがあるのだが、驚いたことに手洗い器がない! ハンドシャワーが便器の横の壁に付いている。一部のアラブのホテルのようにこれを洗浄などにも使うのだろうか? タンクの上には使い捨てのウエットタオルまで置いてある。やや考え込んでしまう。
 そのほかはほぼ完璧。シャワー室のレインシャワーはじつに快適だし、長いバスタブには本を読むラックまで付いている。アメニティはオリジナルのバリエール・ブランドだがオー・ド・トワレはエルメス! ワードローブには可動のシューズロッカーがあって自分の靴をずらりと並べられる。
 ベッドのリネンは木綿だが番手はきめ細かく絹のよう。部屋の照明スイッチは調光付きで各所のコントロールができる最新のシステム。プラズマテレビは大きなミラーに内蔵されている。ファブリックに強いガルシアらしく、房付きのドレープはコネクティングドアの前にもあり、ドアを隠している。
 ハウスキーピングの人もきちんとしていて、リネンや化粧品の程度をたずねるなどサービスは行き届いている。レセプションでもチェックイン時に「友人を待っている」と告げると、なんと、ロビーでおいしいコーヒーを出してくれた。くすぐられる。
 このようなめくるめくような耽美系のホテルは世界中でもパリにしかありえなさそうだが、それでも「淫靡さ」、「翳り」があるホテルが少なくなった……と思う。
 暗いうちから朝食をいただいていると、どこかで見たことがある女優がカップルで現れた。
 うーむ、灯台下暗し、とはこのことか。

*
Jacques Garcia(1947~)フランスのインテリアデザイナー。パリ・ヴァンドーム広場近くのオテル・コスト(『TOTO通信』2005年春号所収)はじめ、17~18世紀と現代が混在したようなホテルデザインを手がける。最近作は、サンジェルマンの「オテル・オデオン」。

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