特集3/ケーススタディ

薄いコンクリートがシャープさを描く

 ただし玄関まわりに変化はない。これを眺めて気づく。屋根の薄さ、2階建てなのに1層に見まがうプロポーションの造り(そのために1階フロアは地面に掘りこまれている)。屋根と軀体のあいだに置かれたフロストグラス。軽さと薄さが印象をつくっている。
 そのなかで、この家のシャープな造形をひときわ印象づけているデザインのポイントは、軀体コンクリートの薄さ。一応気づいていたのだけれど、壁厚、スラブ厚ともに150mm、この薄さが、魅力の源ではないかと長年思い返していたことがどうやら確認できたと思う。この再確認が今回再訪の主眼。やはり思う。安心する。
 整理整頓され、線を減らしたデザインに加えて、コンクリートの薄さが、形態のシンプルさを際立たせている。
 もうひとつの確認事項は、あの薄さで構造的にコンクリートは成立するのかという点。あらためて西宮さんにぶつけたかった。恥ずかしながら20年前にはこのデザインと構造の基本が見えていなかったという反省もある。
 このコンクリートの薄さの構造的な成立理由。答えは単純だった。「鉄筋を隙間が見えないほど入れてあります」。たぶん現在の建築基準法ではこの薄さは許されないかもしれないけれど、強度を維持するためにはその手があったかと納得した。建築家がひとつのイメージを通すとき、執着するイメージにこだわり、それを成立させるためにひそかに行う技術的な配慮のひとつがここにあったということ。一挙に納得した。

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