特集4/ケーススタディ

ディテールを消した後に「大竹の家」 サポーズデザインオフィス 建築設計事務所 ホームページへ

高く、遠くへ跳ぶ

 分野を限らず、あらゆる創造的な作業に携わる者であれば、高く、遠くへ跳ぼうとする意志をもつことが重要だ。初めから低く、近くを目標とすれば、達成する可能性は増す。でも、うまくいったとしても、それだけのことでしかない。
 高く、そして遠くへ。
 とはいえ、言うは易く行うは難い。ことに建築設計の分野では。なぜならば建築の設計は、独力ではどうにもならず、多数の人々の支援、協力、理解を要するからであり、また他者の資金を安全かつ確実に運用する責任があるからであり、さらに広範な技術や技量を身につけなければならないからである。こうした数多の障害や制約を通り抜けるあいだに、気がつけば手近な着地点にたどり着き、そこを定位置に安住してしまう例は多い。
 近年、ひとり立ちし、勢いよく活動する若手建築家が広島に目立つという。その理由は定かでないが、そのひとりである谷尻誠さんを例にとると、高く、遠くへ跳ぼうとする意志をもつに十分な引き金があり、またその意志を持続する環境を自らつくり出しているように思える。
 引き金とは、広島を根拠地として作品をつくりつづけている先達が身近に存在することだ。彼らは、十分なデザイン力をもち、視線は高く、広島の、そして日本の枠を突き抜けて伸びている。教育者でもある彼らは、完成した谷尻さんの建物のよき審判者でもあるという。彼らの作風が大別すればミニマリズムの範疇にあることも、たぶんよい方向で作用している。個人住宅の規模である限り、表現の方向を一点に定め、純化させていくほうが、方法も結果も明快でわかりやすいからだ。
 一方、意志を持続していける環境とは、第1には理解ある施主の存在である。これは住宅が完成するたびにオープンハウスを開催し、実物を見て確かめる機会を設けてきている谷尻さんの努力によるところが大きい。第2には施工者の存在である。若手建築家の設計意図を尊重し、それをフォローしつつ、定められたコストに収めて完成に導く施工者が、広島近辺にはまだいるのである。
 これ以外にも理由はあるはずだが、いずれにしても、高く遠くへ跳ぼうとする意志をもつ若い人たちが多く出てきて、力強く大地を蹴り、空高く舞うのは、痛快であり、すばらしいことだ。

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