特集4/ケーススタディ

対比的な景観、対比的な開口

 広島県の西端、山陽本線の大竹駅と玖波(くば)駅の中間に、亀居城址がある。1603年から5年がかりで築城されたが、故あって3年後には破却されてしまい、その後荒れるにまかされていたが、近年発掘調査が行われて立派な石垣が現れ、公園として整備され、春は桜の名所として親しまれている。瀬戸内の海岸からいきなり急峻な崖地となり、その頂、標高88m。まさに天然の要塞。今では埋め立てがなされてやや海から遠いが、それでも見晴らしはきく。その亀居城址の石垣の直下、尾根になっている場所が、谷尻さん設計の「大竹の家」(2007)の敷地である。
 2階に上ると、築城から400年、いや源平の時代までさかのぼれば800年の歴史の変遷を凝縮したかのような、壮大にして奇妙なパノラマが眼前に広がる。すなわち、北に目をやると海峡の向かいに厳島(宮島)の意外に大きな山容がある。転じて南に向くと、近景には亀居城址の緑がせまり、その下の谷間には墓地が広がっているかと思えば、遠景の埋立地には石油関連製品の巨大工場の煙突が群れそびえて煙をたなびかせ、その向こうには海面が広がっている。前夜には雪が降ったとかで、外気は刺すように冷たいにもかかわらず、眼前のパノラマには全体に淡いヴェールがかかっていて、春の趣。
 この2階がリビングダイニングで、北と南の対比的な景観に合わせ、まったく異種の開口が用意されている。落ち着いた景観の北側にはダイニングを配し、幅7m、高さ60㎝のピクチャーウインドーを設けているが、反対に遮るもののないダイナミックな景観の南側には、深い庇をもつ広大なテラスに連続する、開放感あふれるリビングを配している。床、壁、天井、軒裏は内外とも白一色。建具、家具は黒一色。強すぎると思われるコントラストを、艶あり塗装の天井面からの反射光が空間全体を満たすことで中和している。
 1階は玄関、浴室、寝室。2階の構成を反映して、北側は壁面で閉じ、開口部は極小とする一方、南側は思い切り開放的な空間としている。南東のコーナーにある浴室さえも例外でなく、天井から床までの全面ガラス。割りきりがよい。

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