特集2/ケーススタディ

ミニマルを超えるとき「鞆の浦のアトリエ」 宮森洋一郎建築設計室 ホームページへ

大小ふたつの箱によるミニマルな空間

 広島県福山駅から車で約20分。数々の歴史、また映画や小説の舞台として有名な、鞆の浦の海岸線に出る。山側へ延びる細く急な坂道を上ると、「鞆の浦のアトリエ」が姿を現した。正面から見ると、そびえ立つコンクリート打放しの壁が力強く感じられる。横から見ると、大きく量感のあるコンクリートの箱の上に、平べったい箱が海側にずらしてのせられたような格好をしている。下の箱が吹抜けをもつアトリエ、上の箱が住居スペースという構成である。
 中に入っても構造体はことさら目立たず、シンプルな箱という印象に変わりない。プランニングはシンプルなもの。天井高が約4mのアトリエと、アトリエに付随するスペースが1・2階にあり、3階はすべて住居という構成。すべての階で、北側の5分の1ほどのスペースに機能的な要素がほぼ集約されている。各階をつなぐ階段のほか、1階では作品保管庫、2階は靴を脱ぐ場所でもあるオフィススペース、3階は住居用のトイレ・洗面・バスルームの水まわり空間。各階の残りのスペースではこうした機能的な空間が視界に入ってこないぶん、箱という印象が強まっている。
 スペース同士の仕切りは、オフィススペースでアトリエとのあいだを分ける扉がある程度。住居スペースではキッチンが壁で仕切られてはいるが扉はなく、開口部がダイニングに向けてあけられ、ゆるやかに居室とつながっている。住居スペースはところどころでカーテンで仕切ることはできるが基本的にワンルームの空間である。
 住居スペースはアトリエの天井高に慣れた目には低く感じるが、そのぶん水平方向へ視線が広がっていく。横長の窓はFIXガラスで、方立はごく限られた箇所にしか設けられていない。方立の見付け寸法も最小限に抑えられているので、海方向への視界は妨げられることがない。バスルームまでも同じように窓ガラスが連続している。
 住居スペース全体にわたる横長のガラス窓は、キャンチレバーのように約1mせり出したコンクリートの窓台に固定されている。この出窓のような張り出しによって、近くに立つ家々の屋根面は視界からカットされ、海を中心とした光景となった。窓台は室内ではベンチとなり、窓ガラスを挟んだ室外では窓拭き用の足場となる。また、窓下の部分にはダクト用防虫網を転用した丸い開口が横一列に設けられ、それぞれに付けられたアルミ板では開き具合の調節ができる。ここで通風を確保することで、横長窓は眺望に特化したものとなった。

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