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2023年9月25日

便器に一体化するスリムで滑らかなフルカバーデザイン。感性工学の視点からさらなる進化を形に

快適はヒトの手から〜開発ストーリー〜

TOTOの「ウォシュレット®アプリコット」といえば、ウォシュレットシートタイプの最上位機種。陶器の滑らかな曲線にフィットする丸みあるフォルムや、汚れにくい整ったディテールなど、シンプル&クリーンを追求したデザインが高い評価を受けてきました。2023年8月に発売された新ウォシュレット®アプリコットでは、さらにデザインが進化。薄く滑らかなシルエットのフルカバーデザインを実現して、トイレ空間の品位を高め、清掃性も向上させました。デザインを担当した吾郷貴大さんに進化のポイントを聞きました。

デザイン第二部 第二デザイングループ

吾郷 貴大 さん

京都工芸繊維大学大学院デザイン経営工学専攻修了。大学時代は、マーケティングや感性工学などを含めたデザインマネジメントの視点からプロダクトデザインを研究。2016年に入社後、2年間は国内システムキッチンのプロダクトデザインを担当。2018年より、国内外の衛生陶器(大便器、小便器)、ウォシュレット®、操作系などのプロダクトデザインを担当。



ウォシュレット®アプリコットの紹介動画、「清潔を約束する新しいカタチ」(動画/TOTO)



一歩踏み込んで次の“進化”へのヒントを探す


    「アプリコット」の特長について教えてください。


吾郷さん(以下、吾郷) アプリコットシリーズは、便器の「ネオレスト」シリーズとともにTOTOを代表する商品です。コンセプトは「究極のシンプル&クリーンなデザイン」。これまで4回のモデルチェンジを経ていますが、段差や隙間のない美しいおさまりや、お掃除しやすい形状など一貫したデザインの進化を遂げてきました。段差や隙間を最小まで突き詰めた設計からくる便器との一体感もお客様から評価されています。


    今回のモデルチェンジにあたってどのような点を意識しましたか?


吾郷 「アプリコットらしさの再考」と「最上位機種としての品位」の2点です。一貫したデザイン進化を遂げてきたからこそ、見落としていた視点がないだろうか、また最上位機種として他の商品とは一線を画すような新しい価値を提供できないだろうか、といったことを念頭にデザインを検討しました。


    あらためてアプリコットを見直して気が付いたことは?


吾郷 長くお客様に愛され続けてきた歴史ある商品ですから、お客様からのアンケートの記録などを調べてみても、よい評価を多くいただいていて、逆にお客様視点での課題となる部分やデザイン的に改良すべき点というものが見つけづらかったですね。つまり最上位機種というものは、お客様のご要望にお応えするだけではなくて、私たちTOTOの側からお客様に「アプリコットはこういうウォシュレット®です」というご提案をするという、一歩踏み込んだ姿勢が求められているのではないか。そう感じました。


    欠点やクレームを解消するだけではなく、よりよいものに昇華させていくのですね。


吾郷 これまでのよさを引き継ぎながら、歴代モデルのデザインを分析してさらに進化させていくというイメージで取り組みました。これまで清掃性を突き詰めて隙間や段差を解消したり、シンプルさを追求したノイズレスデザインを目指してきたわけですけども、その過程の中でそぎ落としてきたもののなかに、もしかしたら次の進化へのヒントがあるかもしれない。そのような思いがありました。



タンクに手を当てる吾郷さん。商品のデザインを検討するときには、実際に触ってみて、質感や曲面の感覚を確かめるそうです。



空間全体に与える印象まで美しいウォシュレット®に進化


    吾郷さんが見つけ出したアプリコットを進化させるための課題とは?


吾郷 陶器である便器と、樹脂製品であるウォシュレット®は、そもそも素材が異なるので、従来のように「設計的な一体感を高める」ことのみを追求していくと、それぞれの質感や印象の違いが際立ってかえって違和感が生じるのではないか、ということに気づきました。もしかしたら、これまでのアプリコットでは便器との設計的な一体感やノイズレスデザインを追求していくあまりに、見失ったものがあるのではと。


    課題にどのように対応しましたか?


吾郷 アプリコットのように高い機能を搭載している樹脂製品の場合、どうしても家電製品のような冷たい無機質な印象になりがちです。そういった点が、便器の持つ陶器ならではの温かみのある形や表情にそぐわない。そこで、清掃性だけではなく「清潔感を重視する」、一体感だけではなく「陶器に寄り添う形を目指す」というように、よりデザイン的な視点で考え直すことにしました。「何ミリ段差が解消できた」という数値からだけでなく、一歩引いてトイレ全体で見たときの印象やイメージにも目を配ろうというわけです。これまで引き継がれてきたコンセプトの軸は変えずに違和感の原因を紐解き、より具体的に何のための意匠なのか、定義や意図を明確にしていったところ新たなデザイン進化の糸口が見えてきました。


    そのほかに参考にしたものはありますか?


吾郷 海外の他社製品では、WEBサイト上でも画面映えするスリムなデザイン、金属的な質感をアクセントにした高級感の表現など、各市場のニーズに合わせたさまざまな工夫が見られます。そうした市場の中でも埋もれないような最上位機種としてのデザインにしなければなりません。そこで、清潔感や高級感といった“感性的”な表現も考慮して、お客様やトイレ空間全体に与える印象まで美しいウォシュレット®に進化させることを目指しました。



試作を重ね、開発部門をはじめ、他の部署とも細かく協議を繰り返し、アプリコットの新しい形を模索していきました。




水の表面張力がモチーフ。便器との調和を目指したデザインに

    新しいアプリコットはどのように変わりましたか?


吾郷 まず大きな特長として挙げられるのは、従来の便ふたに組み込んでいたコの字型の分割をなくして、よりシンプルで清潔感のあるフルカバーデザインを実現したことです。そのように便ふたをフルカバータイプにすると切り欠きがない分、開けたときにふたの先端が高くなって、タンク上のボウルでの手洗いを妨げてしまっていたのですが、今回は、開発グループにも尽力してもらって、従来よりも製品本体をスリムでコンパクトに。手洗いのしやすさと清潔感のあるフルカバーデザインを両立することができました。


    凹凸や隙間がなくて見た目にもすっきりしましたね。


吾郷 私が最初に感じていた“家電感”のような機械っぽい無機質な印象が払拭できました。便ふたを横から見たとき、柔らかく盛り上がるような曲面になっています。これは、水の表面張力をイメージしたものです。清潔感の象徴であり、周りの環境に応じて表情を変える水の特性をヒントに、陶器のような素材・カタチと調和する瑞々しい豊かな形状を意識しました。この製品の曲面については3Dモデリングのプロフェッショナルであるデジタルデザイナーとともに光の反射にまでこだわりデザインしたことで、今までのアプリコットにない情緒的かつ上質な印象に進化していると思います。


    陶器であるタンクや便器の柔らかな輪郭とも調和するデザインですね。


吾郷 アプリコットと一番美しく調和する便器としておすすめするのが「ピュアレストEX」です。オーバル形のタンクを背負った柔らかなデザインが、今回のアプリコットの上質な丸みとマッチします。立体的な曲面にまでこだわり調和を目指し、これまでにない便器とウォシュレット®の一体感を実現しました。



従来品(右)は、コの字型の切り欠きがあり、センサー部も表面に表れていました。新しいアプリコット(左)はそれがなくなり、フルカバーするスタイルに。
本体が薄くコンパクトになったため、フルカバー化したにも関わらず開いた便ふたが手洗いの邪魔になりません。
ふたの厚みは、以前の47mmから33mmまでスリムに。
アプリコットのコーナーから背面への丸みは、タンクの曲面と調和します。




トイレ空間の美しい調和にまた一歩近づけた

    豊かなトイレ空間づくりのために注力したことは?


吾郷 商品単体としてシンプルでおさまりがいいというのはもちろんのこと、それだけではなく、周りのものや環境と「美しく調和すること」を意識しました。ウォシュレット®は樹脂を用いた工業製品ですが、お客様こだわりの、インテリアとしてのトイレ空間にも美しくおさまるように、清潔感や品位などの人に与える印象にまで配慮を巡らせました。モノの形、質感、映り込む光などさまざまな視点から見つめています。


    商品の印象やイメージなどはどのように検討するのですか?


吾郷 私は大学時代に感性工学という分野の勉強をしていて、印象のような感性的なものを数値に置き換えて評価する、ということをおこなっていました。今回は、そうした知見をベースに、当社の研究部門とも連携しながら、ふたの形状や動きの美しさなどを検証していきました。


    新アプリコットの手ごたえはいかがですか?


吾郷 海外商品は金属調の派手なデザインや、家電寄りのメカニカルなものもあったりするのですが、アプリコットの目指す方向性とは明らかに違いますね。今回のアプリコットは、比較的落ち着いたデザインになっています。これが私たちの考えるアプリコットらしい上質さであり、これまでも常に目指してきた姿であると思っています。今回のモデルチェンジでは実現できなかった課題もありますが、トイレ空間の美しい調和にまた一歩近づけたのではないでしょうか。


    今後、アプリコットはどのような進化を目指しますか?


吾郷 スリム化やシンプル化を実現して、今まで気になりにくかった要素がまた目立つようになってきたように感じています。機械的な反応音も改善したいですし、操作に伴う表示ランプの色みなどももっと上質なものにできそう。

日本以外の市場も見てみると、昨今の価値観の多様化やトレンドの移り変わりの早さにはすさまじいものを感じています。これから「アプリコットらしさ」の枠を超えた、さらに新しい提案も考えてみたいですね。

有機的な柔らかいシルエットは周囲の空間にも違和感なく馴染みます。
どのような便器と組み合わせても違和感なくマッチする、主張し過ぎないデザインを目指すため、海外のさまざまなデザインの便器を並べアプリコットを設置して確認。VR(Virtual Reality:仮想現実)なども活用してマッチングの検証を行いました。
製品の機能について、開発部門のスタッフと打ち合わせをする吾郷さん。デザイン面だけでなく、製造工程や耐久性、機能面などあらゆる角度から商品の完成度を高めていきます。

編集後記


開発されてからこれまでの長い間、改良を積み重ねてきた歴史ある商品。それをさらにブラッシュアップさせるという課題は、どれほどの重責だったのか図り知れません。そのような重責を振り払い完成した新アプリコットは、一目見て、ウォシュレット®と便器の一体感、「水の表面張力」にインスパイアされた滑らかなフォルムなど、歴史を背負いながら次世代の姿を実現したことがわかります。「感性工学」の知見を武器に歩む、吾郷さんの今後の挑戦にも興味津々です。

編集者 介川 亜紀

取材・文/渡辺 圭彦  写真/ゼネラルアサヒ(特記以外)  構成/介川 亜紀  2023年9月25日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。


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アプリコット

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