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2025年9月24日

非日常の「ホテルライク」空間を演出する洗面化粧台。デザインと機能をより美しく融合させ、フルモデルチェンジ

快適はヒトの手から〜開発ストーリー〜

水まわり製品について「ホテルライクなものがほしい」という声がよく聞かれるようになってきました。機能が優れているだけでなく、美しい意匠をもって心を癒すようなデザインが求められている、そんなトレンドが私たちの暮らしの中に生まれているようです。そうした変化に応えてフルモデルチェンジした、8月1日に発売されたばかりのTOTOのシステムドレッサー「エスクア」。担当デザイナーの小西加呂さんと、開発に携わった津田英作さんに進化のポイントをうかがいました。


デザイン第一部 第一デザイングループ 主任デザイナー


小西 加呂 さん

東京芸術大学美術学部デザイン科を専攻。1990年に入社後、キッチン、バスルーム、洗面化粧台などのデザインを手掛ける。


キッチン・洗面開発第二部 キッチン・洗面開発第二グループ

津田 英作 さん

九州大学大学院工学府で水素エネルギーシステムを専攻。2017年に入社後、技術開発やキッチンや洗面化粧台の新商品開発に従事。2023年よりエスクアの開発担当として、新商品開発業務に携わる。



「エスクア」(写真中央)のコーディネート例。白と黒の組み合わせがスタイリッシュ(写真/TOTO)



「ホテルライク」な洗面空間を求めて


     8年ぶりのフルモデルチェンジ、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

小西さん(以下、小西) コロナ禍を経て、みなさん、家で過ごす時間が長くなりましたよね。その中で、洗面所の役割も変わってきたと思います。もう「顔や手を洗うだけの場所」ではなく、メイクやスキンケア、ヘアケアをしながら気分を整えたり、リラックスする場所にしたい。そうした声や暮らしの変化に応えられる洗面化粧台が必要ではないか、そこから今回の開発がスタートしました。


     開発のコンセプトはどのようなものでしたか。

小西 最近の洗面化粧台のトレンドって、オリジナルの造作洗面台が伸びているんです。私たちが調査してみたところ、大きくニーズが二つありました。「お気に入りのアイテムで自分らしく飾って、家事を楽しめるクラフト感のある洗面空間」と、「洗練された雰囲気の中でリラックスして、気分まで高まるホテルライクな洗面空間」。最上位モデルの「エスクア」なら、「ホテルライク」という要素は欠かせない!という結論になりました。とはいえ、これまで大事にしてきた「使いやすさ」や「お手入れのしやすさ」といったポイントは、変わらずしっかりキープすることとしました。


     「ホテルライク」を実現するにはどのような要素が必要なのでしょうか。

小西 そこが最初の考えるべきポイントだったんです。「ホテルで過ごすようにゆったりできる洗面空間って、具体的にはどんなものなんだろう?」と。私たちデザイナーのチームと津田さんたちの開発チームとが一緒になって、方向性や定義について、かなり密に意見を交わしました。



開発の津田さん(左)とデザイナーの小西さん(右)、それぞれの視点の違いをすり合わせながら、新しい「エスクア」のコンセプトを生み出していきました。



施工しやすい壁付け水栓を実現


    「ホテルライク」はどのような点で表現されたのでしょうか。

津田さん(以下、津田) 大きく分けると、「壁付け水栓や大型陶器ボウル」「間接照明による空間演出」「大判の石目柄カウンター」という3点が、従来の「エスクア」にはなかった新しいポイントです。壁付け水栓や大型陶器ボウルは、まさに高級ホテルでよくみられる仕様です。ホテルのような洗面所空間を求める設計者だったら、どのような形状や機能を好むのだろうか。実際にいくつかの水栓のパターンを用意して、商業施設などの設計者の方々にご意見をヒアリングして、要素を絞り込んでいきました。



水栓の仕様の検討段階では、口径の異なる複数のモデルを用意して、洗練された印象の形状について建築デザイナーなどにヒアリングを実施。
ヒアリングの際、「水栓レバーを操作するときにヘッド部分も一緒に動くのは美しくない」と指摘され、操作時にもヘッドが動かない仕様を実現。意匠面と機能面を両立させることが徹底されています。


    壁付け水栓の開発にはかなり時間と手間をかけたそうですね。

津田 ホテルのような壁付け水栓は初めての形だったので、すべてがチャレンジ。ただ意匠に優れているだけではなく、実際に取り付けるときにも、メンテナンスの場面でも、現場の方々がスムーズに作業できるようにしないといけません。そのために生み出したのが、壁側のバックパネルと水栓を一体化させる構造です。


    どのようなメリットがあるのですか。

津田 従来、壁付け水栓の場合、施工前に取り付け位置を検討して、壁面の裏側に設置する手間がありました。位置設定に細かい調整が必要で、かなりの技術と手間が施工の負担になりがちでした。これをクリアしないと、普及は広がらない。頭を悩ませましたね。

でも、ある日、ハンバーガーショップで飲み物を購入したとき、糸口を見つけたんです。ドライブスルーを利用する場合、車を運転中でも苦労せずにストローをカップに刺せているな、と。要は、ふたに穴があらかじめ開いていれば、見ないでも刺せる。同じように、バックパネルに水栓を一体化した状態にしておけば、パネルの設置位置だけ決めればいい。水栓本体を固定する手間や技術が不要になるんです。


建物の壁に水栓を固定するのではなく、バックパネルに一体化させる構造を考案。水栓の取り付けは建物の壁の表面にパネルを取り付けるだけで済み、現場の施工の手間が大幅に軽減されました。
バックパネルの裏側を見たところ。水栓は金具で固定され、プルアウトするホースもきちんとおさまっています。
バックパネルの裏側にある水栓やプルアウトホースを適切な位置におさめるパーツの試作品。(上から)3Dプリンタでつくった初期型から固定強度の高い金属製まで、開発の変遷が分かります。
バックパネル付近の模型。「エスクア」全体のシャープな印象を実現するため、裏のパーツは可能な限り薄く設計しました。
実際の建物の壁に取り付けられたバックパネル付近の様子。最小限の薄さですっきりとした仕上がりに。


   水栓の交換などメンテナンスも可能ですか?

津田 バックパネルを壁に設置したままで水栓を交換できるようにしました。バックパネルの裏側や建物の壁を工事する必要はありません。

従来の壁付け水栓は、壁に直接固定していたので、ホースを引き出すプルアウトは不可能でした。今回の「エスクア」では、これまでご説明したようにバックパネル裏にホースがおさまるようにしたので、プルアウトが可能になりました。洗面ボウルを洗いやすく、お手入れなども簡単にできます。適度な深さの大型陶器ボウルを組み合わせているので、手を洗うだけでなく、花瓶に水を入れたり、靴など大きめの日用雑貨などを洗ったり、といった多様な使い方も可能です。


独自の構造により、壁付け水栓でもホースのプルアウトが可能になりました。



すべてのパーツがひとつに溶け合う、繊細なデザイン


   意匠面における「ホテルライク」のポイントは?

小西 コンセプトは「心地よい余白」。余計なものをできるだけなくし、すっきりと目にやさしいデザインを目指しました。洗面化粧台は、鏡やボウル、カウンター、キャビネットなどいくつものパーツから成り立っています。しかも、それぞれ複数のバリエーションがあるのですが、どれを組み合わせても美しくまとまるように、全体の統一感にこだわっています。多様な組み合わせができるのはシステム商品の難しさでもあり、同時に大きな強みでもあります。その強みを生かすために、パーツ同士がつながる部分はできるだけ目立たないように、ディテールまで丁寧に調整しました。



組み合わせの一例。水栓、ボウル、バックパネル、カウンターに一体感があります。


   その他の変更点である「間接照明による空間演出」「大判の石目柄カウンター」についてはどのような狙いがあるのですか?

小西 照明は、光源や器具そのものが目に見えないように工夫しました。目に入るのは光だけ。そうすることで、光が建築と響き合い、部屋全体がやわらかな明るさに包まれるイメージにしています。余計なものをそぎ落とした、すっきりしたデザインにまとめたことで、カウンターの広い面積も自然と目に入るようになりました。だからこそ大きな石目柄がグッと引き立つと考えました。


   細部まで繊細にデザインを突き詰めているのですね。

小西 実は、バックパネルに本物のタイルを貼ることも検討しています。でもタイルには目地があって、鏡や水栓、キャビネットと組み合わせたときにゴツゴツとした違和感のある印象になってしまいました。また、厚みの分だけカウンターが狭く感じられてしまう点も気になるところでした。そこで選んだのが、無機ボードにタイル柄を塗装する方法です。見た目はすっきりしているのに、本物のタイルの雰囲気も楽しめる。そして何より、鏡やキャビネットと自然になじんで、ひとつの家具のようにまとまります。どんな空間にもすっととけこみ、毎日の暮らしを気持ちよく彩る洗面化粧台を目指しました。


バックパネルのタイル柄を検討する小西さん。わずかな色柄の違いで印象が大きく変わるため、隣り合うカウンターの色の組み合わせも重要なポイントになります。
水栓のレバーもさまざまな形状、サイズのバリエーションが検討されました。



「新しいエスクアに共感していただけたら、うれしい」


   今回、これまでにない「エスクア」のフルモデルチェンジに挑んで、どのような感想をお持ちですか?

小西 「心地よい余白」というコンセプトを突きつめていくと、色、素材、仕上げといった要素が、より一層際立って見えてくることに気づきました。そして、新しい提案をするときには、デザインや機能性だけでなく、安全性をしっかり裏付けることも欠かせません。そこはかなり時間をかけて取り組みました。メーカーとして大事にすべきことを、あらためて実感しています。


津田 新機能「センシングシステム」を搭載したことで、従来は1種類だったタッチレス水栓が、6種類のデザインから選べるようになったり、照明の自動点灯・消灯機能、「調光・調色スリーモード」、水栓使用の10分後に「きれい除菌水」を自動噴霧する機能なども実現するなど、機能面でも新しい要素を取り入れています。

ですから、一般の方にモニターとして参加いただいて、使い勝手についても慎重に確認しています。モニターの皆さんの動きを録画して検証していると、本当に人によって洗面台の使い方が違うんだなと実感しました。それでも、どんな方にとっても直感的にストレスなく使えるようにしないといけない。そんな責任も感じましたね。


   新しいことを取り入れるのは、やはり容易ではないのですね。

小西 TOTOはこれまでもシャンプードレッサー、ウォシュレットといった商品で、暮らしに新しい価値をもたらす商品をお届けしてきました。振り返ってみると、それは生活の変化にちゃんとアンテナを張ってその時代に合った答えを出してきたからだと思うんです。今回の「エスクア」のフルモデルチェンジも、同じ気持ちです。お客様に「そうそう、これが欲しかった、これはいいね」と共感していただけたら、うれしいです。

今回、都内のホテルに実際に泊まって、洗面台の採寸をしたり、手で触れて質感を確かめたりもしました。「ホテルライク」って言われる空間がどんなものなのか、自分たちで感じてみたかったんです。そうやって現場に飛び込むことで、時代に合った提案ができると思っていますし、その感覚はこれからも大切にしていきたいと思っています。


津田 洗面化粧台の意匠の検討段階ではVR(Virtual Reality=仮想現実)の技術を利用して、いろんな角度から眺めてみることもしました。洗顔、手洗いといった基本的な行為のしやすさは、水まわりメーカーとして大事にしながらも、社会とともに会社も商品も進化させていきたいですね。


洗面化粧台の未来について語り合う、津田さんと小西さん。これからさらに新商品が生まれていきそうです。



編集後記


洗面所は単に身支度を整えるだけではなく、外出前あるいは就寝前に気持ちまで整うようなおしゃれで心地よい空間にしたい。ユーザーが望む“ホテルライク”という言葉には、そのようなイメージが込められているように思います。フルモデルチェンジしたエスクアは、それひとつあるだけで、洗面所の空気感を変えてしまうほどのホテルライクなデザイン性を実現。これまで造作でしかできない、と思われていたレベルを超えているのでは? これから全国各地に、エスクアを活かした素敵な洗面所が増えていくと思うとわくわくします。

編集者 介川 亜紀

取材・文/渡辺 圭彦  写真/木村 輝(特記以外)  構成/介川 亜紀  2025年9月24日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。


「エスクア」のコンセプト動画はこちら
過去の記事はこちらから

次回予告

次回は、“むだなく動けて使いやすい”“きれいが続く気持ちよさ”を叶えるシステムキッチン「ザ・クラッソ」で注目の機能、「スクエアすべり台シンク」を中心にご紹介。開発秘話を開発者に伺います。乞うご期待!

2025年12月中旬公開予定。



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