使い勝手と美しさを追求しフルモデルチェンジ。新生活様式も反映した洗面化粧台に
TOTOの「オクターブ」は、機能と衛生性、清掃性に優れる洗面化粧台として幅広いお客様から人気の商品です。発売以来、寄せられてきたお客様の声をもとに、2022年8月、今の暮らしにさらに寄り添う形にフルモデルチェンジ。デザインや清掃性、使いやすさのブラッシュアップなどの課題に取り組んできた、佐藤望さんに開発の経緯や商品の魅力などについてうかがいました。
2022年8月23日
2025年1月22日
#洗面プロモーション
かつて洗面化粧台の収納キャビネットは、複雑で場所をとる形の排水管が中央に陣取っていたため、それを避けるためにキャビネット内の収納スペースが狭くなっていました。そんな状況を一変させたのが、TOTOの洗面化粧台の引き出し収納で標準仕様となっている「奥ひろし」です。従来よりも収納量は約1.5倍に増え、スタンダードな仕様となりました。開発に携わった辻埜晶子さんに収納スペース大幅アップのポイントについて伺いました。
キッチン・洗面開発第1部 商品企画グループ
辻埜 晶子 さん
2005年に入社。大学院にて複合材料を研究。金属材料やセラミックのコンポジット、圧電セラミックの研究に携わる。入社後、洗面化粧台の開発を約10年の間担当。その後、商品企画に従事。
「奥ひろし」、とても印象的なネーミングですね。
辻埜 晶子さん(以下、辻埜) 数多く出された名称案の中で異彩を放っていた「奥ひろし」という案は、当初、選ばれなかったんです。従来にはないネーミングでしたので(笑)。耳に残る、誰しも商品の特長をイメージしやすい名称にしたい、ということであらためて選ばれて、命名されました。
開発の経緯について教えてください。
辻埜 きっかけは2009年に発売した洗面化粧台「オクターブ」の開発でした。開発にあたって、お客様は洗面化粧台にどのようなことを求められているのか、市場の傾向を分析したり、当社商品を購入されたお客様にお願いしているアンケートはがきの内容を読み込んだり、実際にお客様のご自宅を訪問して、洗面化粧台の使用状況を調査させていただくこともありました。その結果、収納が課題だとわかったのです。
どのような点が問題になっていたのでしょうか。
辻埜 以前から、カウンター下は収納部として利用されてきました。2003年ごろから収納は、扉タイプだけではなく引き出しタイプも増えて、奥まで使えるように便利になっていましたが、排水管を避けるために引き出しの一部を切り欠く形になっており、その分、収納量が損なわれていたのです。
そういう背景から、取り出しやすさと量の両方を兼ね備えたものが市場のニーズに現れたのかもしれません。また、ちょうど、そのころから共働き世帯が増えて、洗剤などのストックをまとめ買いするという生活習慣が生まれてきたのも、収納への不満の声につながっていたかもしれませんね。
現地調査ではどのようなことがわかりましたか?
辻埜 多くのお客様にご協力いただき、収納物の種類や個数、サイズ、配置などを具体的に調べていきました。その結果、ご家庭によって収納物の傾向に大きく違いがあることがわかりました。それを踏まえて、4人家族の収納物を想定したモデルをつくり、それらがおさまるキャビネットの容量やサイズなどを割り出していきました。
そのモデルをもとに商品開発に取り組んだのですね。
辻埜 およそ従来の引き出し収納の1.5倍の量をおさめることが開発チームの目標になりました。その結果、かなり大がかりな改良が求められましたね。
どのようなことが改善のポイントになりましたか?
辻埜 まず収納の邪魔になっている排水管の位置をさらに奥に移動することです。当時はカウンター面から水栓が立ち上がるデッキ水栓タイプが主流でした。その場合、洗面ボウルの中央に排水口があるため、どうしてもその下にある排水管が収納部の妨げになってしまいます。そこで、水栓を壁に設置する仕様へ変更し、排水口の位置を従来のデッキ水栓タイプより奥へ移動させることで、収納スペースを50%増やすことに成功しました。
引き出しだけの改善ではなかったのですね。
辻埜 工夫として、奥に排水口と水栓の機能を寄せることで壁との距離も近づきます。引き出して使える水栓のホースは、従来はカウンター下にスペースがあるため、多少、動きがあってもその範囲内でおさまっていました。しかし、わずかなスペースでは壁に当たって双方を傷つけてしまうリスクがありえます。そこで、どんな壁でもホースがあたらないようにホースの滑りやすさを担保できるパーツをつくりました。今でもこの設計思想は引き継がれています。
さまざまな工夫が必要だったのですね。
辻埜 洗面ボウルの形状を変えるために製造時の金型も新しくしましたし、壁付け水栓をメンテナンスしやすくするための仕組みも設けました。商品イメージとしてもデッキ水栓タイプから壁付け水栓タイプを採用するということは、商品の顔を大きく変えるということになりますので、関係する部署が総力を挙げて取り組んだプロジェクトだったと思います。当時の話をする社員は、今でもみんな熱く語ります(笑)。それだけ熱量をかけていたんですね。
辻埜さんは何を担当されましたか?
辻埜 主に排水管やヘアキャッチャーなど排水関係のところです。ただ、入社して3年目だったので、商品開発の過程もよくわからず、指示されるまま、なんとかこなそうと必死でした。また、企画時のアイデア出しも担当していて、部門内でワーキングを立ち上げ、生活実感のあるアイデアを50個以上出して、シーズ開発活動も並行して実施していました。「奥ひろし」はニーズとシーズがマッチングした商品です。
どの家庭でも使いやすい収納にするためにどんな検証をしましたか?
辻埜 サンプル品をつくると、4人家族の世帯で想定されるモノを実際に出し入れしてみて、使い勝手を試しました。私は入社3年目でいちばん経験が浅い立場でしたから、なんとか貢献しようと思って、会社の近辺のホームセンターやドラッグストアを回って、さまざまな種類の洗剤や清掃用品などを買い集めてきました(笑)。店舗によって置いてある商品が違うので、あちこち足を運びましたね。
市販の洗剤などもいろいろなサイズや形状のものがありますよね。
辻埜 このサイズだと何本入るか、この高さでもおさまるか、といったことを確かめていきました。柔軟剤のボトルなども大型のものが市場に出てきた頃でもありました。
収納量が増えると引き出しも重くなりますが…。
辻埜 そうなんです。収納物の重量もチェックしました。重くなってもスムーズに動くように、引き出しのレールも変えています。
使い勝手はどう変わりましたか?
辻埜 収納量が約1.5倍になると、ストック品が余裕をもっておさめられるようになります。また排水管に妨げられずに収納物を置けるので、無駄な隙間ができず、雑然としにくくなりました。ひと目で収納の内容が把握できて、収納物を探す手間が省けるのもいいですね。
収納以外にもメリットはありますか?
辻埜 水栓が壁付けになったので、水栓の根本に汚れがたまることがなくなりました。水まわりは毎日使う場所なので、ちょっとしたことでも改善できるとうれしいですよね。
「奥ひろし」の開発に関わってみていかがでしたか?
辻埜 ひとつの商品の企画段階から発売までの一連の流れを学ぶことができて、貴重な経験になりました。当時、経験したことがすべて、いまの私の仕事の基礎になっています。
奥ひろしは、2009年から現在までに、複数のTOTO洗面化粧台の標準仕様となりました。
辻埜 毎年、多くの商品がリニューアルを重ねていきますが、今もなお、お客様に好評をいただいていて、当社の洗面化粧台のスタンダードとして残っているというのは、私にとってもうれしいことです。この経験は私の宝物です。
開発のヒントはどんなところから得ていますか?
辻埜 実は私の夫は家事が得意でして(笑)。整理整頓が大好きで、水まわりのさまざまなグッズも目新しいものがあるといち早くチェックしているんです。「これ、この引き出しに入らないよ」「これを使いたいんだけど」など、個人的に店などでリサーチした内容を伝えてくれるので、大いに参考にしています。
今後、開発者として洗面化粧台とどう関わっていきたいですか。
辻埜 いまの洗面化粧台は、収納だけでなく水栓、鏡、照明、カウンターもすべて機能がレベルアップしていますが、「痒い所に手が届く」ようなTOTOらしいモノ作りをこれからも続けていきたいと思っています。わが家のチビっ子達がようやくTOTOという存在をわかり始めました。身近な家族からTOTOファンを増やしていきたいですね。
技術の進化に合わせて、開発もバリエーションが広がりそうです。
辻埜 いずれ洗面化粧台もセンサーやAIを搭載して健康管理できるようになりそうですね。ストックが品切れになりかけたら、スマホに通知されるとか。わが家では夫がストックもしっかり管理しているので、その機能は不要なのですが(笑)。
編集後記
辻埜さんのお話から、共働き家庭の増加に伴い洗剤などの家庭用品のサイズが変化していったこと、その状況に呼応しTOTOが洗面化粧台の根本的な改善に踏み切ったことなどから、当時、家庭環境がダイナミックに変わりつつあったことが伝わってきました。「奥ひろし」の誕生は単に収納の見直しではなく、時代に寄り添った、洗面化粧台の刷新を目指す一大プロジェクトの一端だったのですね。今も「奥ひろし」が存続している、この真実が当時の挑戦が間違いなかったと示しているのではないでしょうか。
編集者 介川 亜紀
次回予告
次回は、創立以来培った技術で、お客様の暮らしに新たな価値を創造してきたTOTOのトイレの可能性に迫ります。乞うご期待!
2025年7月上旬公開予定。ご覧いただきまして、ありがとうございます。
これからの『開発ストーリー』を充実させたく、皆さまのお声をお聞かせください。
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