2022年7月1日
2022年8月、TOTOのウォシュレット®一体形便器「ネオレスト」シリーズが大きくリニューアルします。その中でも特に注目されるのが、従来の最上位機種「ネオレストNX」の次に位置づけされる、新登場の機種「ネオレストLS」です。デザインに携わった大塚航生さんに「ネオレスト」シリーズのリニューアルのポイントや新製品の見どころについてうかがいました。
ネオレストLS デザイン担当 第二デザインマーケティングG
大塚 航生 さん
東京造形大学造形学部でインダストリアルデザインを専攻。2015年に入社後、5年にわたり国内外の大便器及びウォシュレット🄬のプロダクトデザインに従事。2020年より、デザインに関するマーケティングや戦略立案業務に携わる。
まず、リニューアルのポイントを教えていただけますか。
「ネオレスト」はTOTOのものづくりの考え方を投影させた最上位シリーズです。これまで多くのお客様に愛されてきましたが、リニューアルにあたっては今一度、「ネオレストとは何か」「次にネオレストは何を(提供)するべきか」といったことをデザインチームはじめ、社内で議論していきました。そこで糸口になったのが、海外のトイレ空間のトレンドでした。
日本のトイレとは違うのですね。
はい。従来の日本のトイレ空間は便器のみの個室が多いですよね。ドアを開けると正面に便器があるので、私たちデザイナーはこれまで正面からのビジュアルに力を入れていました。それに対して、世界的にはトイレは、「スリー・イン・ワン」(浴槽、洗面、トイレが一体となった水まわり)に代表されるような、空間を広々ととらえる設計が主流になっています。サニタリー全体の空間と調和しながらも、インテリアの一部として高いデザイン性も合わせ持つ。そのようなトイレを目指しました。
日本の新築住宅でもホテルライクな「スリー・イン・ワン」のスタイルも浸透しつつあるようです。
今、お客様に求められているトイレはどのようなものだろう、お客様のライフスタイルはどう変化しているだろう、そんなことを想像しながらデザインを進めました。
「ネオレストLS」のデザインのポイントは?
製品名の「LS」は「Luxury Style」の頭文字をとったもの。「優雅で贅沢」がキーワードになっています。優雅さを感じさせる便ふたのなめらかな曲面。椅子のように体を受け入れる、広く座りやすい便座。また、便ふたと便器のすき間に施した抑揚のある金属調のラインによって、上品な光沢感を最大限に引き出しています。
トイレといいますと「白」のイメージがあります。「金属調」は新鮮ですね。
実際にサニタリー空間を見てみると、ドアのノブ、引き出しの取っ手、水栓金具など意外に多くの金属のパーツがあります。そうした空間に調和させるため、便器にも金属調のアクセントを付けました。
従来のトイレのような真っ白な陶器の塊ですと、いかにも「トイレ」という印象が強くなりますが、この金属調のラインのおかげでインテリアにもなじむのですね。
これまでは、便器とふたのすき間をなるべく目立たないようにすっきりと見せ、清潔感を表現していたのですが、今回は逆転の発想であえてすき間にアクセントを付けました。
横から見たときのビジュアルも美しいですね。
広々とした空間に置かれるのであれば、正面からだけでなく、さまざまな角度から製品が見られます。ぱっと見たときに違和感が出ないように、便ふたを開けたり、閉めたり、毎日のように試作品を眺めて、じっくりと形状や寸法、金属調部分の質感などを微調整していきました。
カラー展開も斬新ですね。
TOTOのトイレは、空間を明るく広く感じさせ、清潔感のある白にこだわっています。今回、「ネオレストLS」ではその白を引き立たせ、トイレ空間全体でデザイン性や高級感を感じられるよう、アクセントカラーを取り入れたコーディネートを提案しています。
どちらも従来のトイレのカラーコーディネートには見られなかった色調です。
海外では、木、石、タイル、金属といった豊かな質感を持つ本物の素材を生かしたインテリアがトレンドです。「ニッケル」は上質なベージュトーンや明るい空間に調和する、ナチュラルな木目柄と組み合わせやすい色合い。「ブラック」はモダンで落ち着きのある、ダークトーンの空間にマッチするカラー。リモコンや紙巻器、タオルリングなどのアクセサリーは、両方のカラーをご用意しました。
居室のような質の高いインテリア空間になりますね。
はい。トイレ空間のデザインは今よりもっと上質なものになり得ますし、していかないといけない。仲間とそんな話をしながら取り組みました。
トイレ単体としてデザイン性が高く、その一方で空間に溶け込む。それらは相反する可能性もありそうです。
はい、そこが難しい点のひとつでした。最上位機種の「ネオレストNX」はゆとりのある空間に置いたときにこそ魅力を発揮する、印象の強いデザインです。これに対して、今回の「ネオレストLS」は、意匠性の高さを生かしつつも、さまざまな間口の空間におさまりが良いことも目指しました。そのためにこの便器を横から見ると、座面の柔らかな曲線が目に入りますが、正面や上から見ると直線的なフォルムを持つ幾何学的な形状になっています。これなら、優美な雰囲気を漂わせながらも、水平・垂直を基本としたカウンターやキャビネットと調和して、空間にすんなりとおさまります。
なるほど。
また、シリーズの中でも「ネオレストAS/RS」では便器前面を陶器、後部を樹脂で構成していますが、「ネオレストLS」は便器全体を陶器で一体成型しました。床まで段差や継ぎ目のない見た目にしたことで、陶器らしい高級感や清潔感を演出しています。
すっきりしたデザインですね。
実はここも苦心しました(苦笑)。便座は樹脂製で、成型後、寸法はほとんど変わりません。一方、陶器は焼き物ですから、焼成の工程で大きく収縮するため、思ったような寸法に仕上がるとは限らない。そうした特性の異なる素材を組み合わせて、違和感が生まれないようにする寸法、形状を試行錯誤しつつ検討していきました。
デザインと技術の結晶ともいえるトイレですね。
TOTOの衛生陶器は世界的に見ても、性能面では決してひけをとらないと思っています。今回もデザインにこだわって性能を損なうことのないよう、デザインとテクノロジーを融合させて、美しく仕上げたいという思いが根底にありました。
日々使うものですから、性能も重要です。
従来の「ネオレスト」シリーズでは、汚れがつきにくい仕上げ、お掃除の楽な形状など清掃性や衛生に配慮した工夫が好評でした。そこで今回、微細な除菌ミストを便座裏面に噴霧して、尿はねの汚れを抑制する「便座きれい」機能を追加しました。
便座裏の黄ばみが予防できるのですね。
噴霧したミストが便座の表側まで浸水しないように、緻密に制御されています。日本らしいきめ細かな配慮ですよね。あと、便座は以前からリフトアップできたのですが、さらにその高さを増して便器とのすき間も、楽にお掃除できるようになりました。
コロナ禍もあって私たちは自宅で過ごす時間が長くなりました。わが家のトイレを使用する機会も増えたこともあり、デザイン面からも機能面からも、トイレ空間をもっと居心地よく快適にしたいと思う人が多くなってきたように感じます。
そうですね。もっと自分好みの空間にしたいですとか、ホテルのように快適に過ごせる場所にしたいというニーズは、私たち開発・デザインに携わる者もひしひしと感じています。「ネオレストLS」は、そのようなお客様のニーズに応え、日々の暮らしをグレードアップできるプロダクトに仕上がったのではないかと感じています。
編集後記
コロナ禍を経験し、多くの皆さんが水まわりの衛生維持の大切さを再認識しています。また、感染予防のため在宅ワークなどの時間が長くなり「家の居心地が気になり始めた」という声も少なくありません。トイレは衛生面はもちろんのこと、家の居心地を左右する場所。新商品の「ネオレストLS」は全体のフォルム、ディテールともに検討を重ね、プロダクトそのもののみならず空間全体にもラグジュアリー感を醸し出すようなデザインに仕上げられています。今後は長らく心地よく暮らし続ける家づくりのために、このようなインテリア性を配慮した商品選び、トイレ空間づくりが浸透していきそうです。
編集者 介川 亜紀
取材・文/渡辺 圭彦 写真・動画/(株)ゼネラルアサヒ 構成/介川 亜紀 2022年7月1日掲載
※『快適はヒトの手から~開発ストーリー~』の記事内容は、掲載時点での情報です。
次回予告
第2回は、ディテールまで気を配ったスタイリッシュなデザインと、日々の使い勝手の良さ双方を追求した洗面化粧台、新「オクターブ」の開発者にお話を伺います。
2022年8月23日公開予定。共有する
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