

■トイレ_1 夢洲の庭
■トイレ_2 地球の形跡
■トイレ_3 環境に応答する空気膜屋根
■トイレ_4 土の峡谷
■トイレ_5 分解・移設できるブロック
■トイレ_6 水の循環
■トイレ_7 蜃気楼のような建築
■トイレ_8 多様な個が集うトイレ
■休憩所_1 布をまとう大空間
■休憩所_2 石のパーゴラ
■休憩所_3 森に連なる建物
■休憩所_4 波打つ地面と屋根
デザインプロデューサー 建築家
藤本壮介さん
2025年大阪・関西万博ではTOTOがブロンズパートナーとして協賛し、日本館や大催事場などのトイレ整備に協力しています。なかでも異彩を放つのが、1980年以降に産まれた若手建築家たちが手掛けたトイレや休憩所です。
「1970年の大阪万博では磯崎新さんや黒川紀章さんら当時の若手建築家たちが活躍し、その後の日本建築界を牽引する原動力となりました。この精神を継承し、今回の万博でも未来を担う若手建築家を起用したいと考えました」。大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める建築家の藤本壮介さんはこう話します。
「若い世代に挑戦の場をつくりたい」との藤本氏の声を受けて、若手建築家から提案を募るプロポーザル形式に変更。最終的に256件の応募が寄せられ、20組の案が選出されました。
「展示を主体としたパビリオンとは異なり、トイレや休憩所は来場者が実際に利用する施設です。それゆえに、外と内をどうつなぐか、機能性をどう担保するかという建築の本質的な問いに向き合いながら、具体的な提案を行うことが求められます。建築家にとって、創造性を発揮できる絶好の舞台とも言えるでしょう」
このうちトイレと休憩所は12カ所です。「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインコンセプトのもと、SDGs(持続可能な開発目標)達成への貢献を目指して大胆なアイデアが生み出されました。さまざまな素材に先端技術が組み合わさり、多様性や循環型社会など社会課題へのメッセージを発信しています。
藤本さんは、今回の若手建築家らのチャレンジそのものが未来へつながる重要なレガシーとなると話します。
「ここで生まれたアイデアや思考は、次の世代へと受け継がれ、新たな創造性を刺激するはずです。さまざまな社会課題に対して、身近なトイレという施設というアプローチでどう答えようとするのか。そのプロセスこそが未来世代への遺産と言えるのではないでしょうか。彼らの挑戦は、これからの建築の未来を拓く礎となるはずです」
休憩所 1 設計:大西麻貴+百田有希/o+h(大西麻貴、百田有希)
一体的な空間のなかでも男性、女性、オールジェンダーの区分がわかりやすいよう、外側のサインや個室内の色彩に工夫している。
性別を問わずに利用できる授乳室、オールジェンダートイレ、カームダウン・クールダウンルームを設置。
小便器はいずれも個室型でプライバシーが守られる仕様。
円形広場はメッシュ状の膜が張ってあり、下から冷気がしみ出す仕組み。そばには誰でも使える洗面コーナーもある。
色鮮やかな布の屋根の下に人が集い、ほっと息を抜く。そんな「休憩所1」を手掛けたのは、大西麻貴さんと百田有希さんです。デッドストックの布地を生かして、軽やかで明るい空間をつくりだしました。布でできた屋根は風に揺らめき、光を透過してまるで生き物のように表情を変えます。その下の円形広場はメッシュ状になっており、横たわって体を休めたり、差し込む光や風を感じたりと思い思いに時間を過ごせます。「多彩なパビリオンが立ち並び、情報が飛び交う万博だからこそ、木陰のように少し立ち止まれる場を提供したいなと考えました」
円形広場の周りをかこむように女性トイレ、オールジェンダートイレ、男子トイレが並んでいます。洗面コーナーは共用で、例えば子どもたちが外遊びした後でも気軽に手洗いが可能です。壁で空間を仕切らない一方でプライバシーにも配慮し、パウダーコーナーは外から見えづらい奥まった場所に配置するなどレイアウトと動線を工夫しています。
「万博は、未来を考えるきっかけになる場所。この建物が命の息遣いを感じられる社会のあり方を考えるヒントになれば嬉しいです」
トイレ 5 設計:米澤隆建築設計事務所(米澤隆)
半透明の屋根ブロックから光が差し込み明るい空間になっている。段差はなく車いすやベビーカーでも出入りしやすい。
多様な色と形が生み出すあそび心のある空間。仕切り壁はなく、ブロックの配置でゆるやかにゾーニングしている。
既存の性別による色分けの考え方を再構築する色彩設計。
扉のサインで男性・女性・ オールジェンダーなどを表記。
さまざまな色や形のブロックが積み木のように組み合わさって構成する「トイレ5」。ブロックは複数のトイレブースが入ったユニットになっており、万博閉会後にブロック単位での分解・移設が可能なつくりになっています。
「もともと半年という限られた期間で建物を建築・廃棄するのは、経済的にも環境的にも負荷が大きいのではないかという課題意識がありました。ならば、廃棄するのではなく再活用できないかと考えたのです」と米澤隆さんは話します。
男性トイレ、女性トイレ、オールジェンダートイレを仕切る壁はなく、全体がゆるやかにつながっていますが、男性トイレ側から女性トイレが見えないようにブロックをレイアウトするなど細やかに配慮。また「男性は青」「女性は赤」という既成概念にとらわれず、ブロックはあえて多彩な着色としています。
「1970年の大阪万博で花開いた『メタボリズム』(建築の生命性、循環)の建築思想を現代の視点で再解釈したのが今回のプロジェクト。完成形からの変更が難しい建築を、柔軟に変えられる仕組みづくりに挑戦しています。この試みが、建築の可能性を広げる一助になればと願っています」
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