


日本発条株式会社(呼称:ニッパツ)
1939年創業、独立系のグローバル部品メーカー。自動車用ばね、HDD用サスペンション、金属基板で世界トップシェア。モビリティ、情報通信、産業・生活など幅広い分野で、なくてはならないキーパーツを世に提供している。
「トイレは従業員の働きやすさに直結する設備の一つ。現在進めている本館棟のトイレ改修をモデルケースにして、国内外の事業所・工場全体へと波及させていきたいですね」
日本発条株式会社(以下ニッパツ)企画管理本部総務部部長、丸山高史さんはこう語ります。
もともと同社本館棟は築後30年が経過して配管類の老朽化が進んでおり、改修は避けられない状況でした。さらに竣工当時に比べると従業員の女性社員の比率が高まり、従来のトイレでは女性社員にとって使いにくいという声も出ていたそうです。
「当社は中期経営計画のなかで人を大切にする理念をうたっており、働きやすい環境整備は重要なテーマです。そこで従業員にとってより快適な職場環境を提供するため、かねてより懸案だった本館棟のトイレ改修プロジェクトに本格的に着手しました」
まずは来客の多い1階のトイレを改修し、車いすの方やジェンダーフリーに対応した「みんなのトイレ」へと刷新。これが評判を呼び、本館棟全体へトイレ改修が広がりました。
まずは本館棟のなかでも女性社員の多い6階からトイレ改修をスタート。「女性にとっても使いやすく快適なトイレにしたい」との意向から、女性社員へのヒアリングを実施しました。
「男性では思いもよらない声が寄せられ、非常に参考になりました。例えば『手洗いや身だしなみの際に、隣の人が鏡に映りこむのは抵抗がある』といった意見は、男性ではほとんど見られません。ほかにも朝や昼間の混雑しやすさ、暗さを改善してほしいという声が多く上がりました」。ヒアリングに携わった同社総務部主査の林哲士さんはこう話します。
さらに総務部メンバーはTOTOのテクニカルセンターに足を運んだり、トイレセミナーに参加して最新技術を学び、オフィスや工場におけるトイレのトレンドについて情報を入手。「これは非常に有益でした」と丸山さんは振り返ります。
「最初に本館棟のトイレ改修を提案した際は、『まだ使えるだろう』と却下されてしまったのです。そこで再提案の際は、テクニカルセンター見学などで得た知見を基に、トイレ改修がもたらす利益を具体的に説明しました。例えば『個室の便器をフラッシュタンク式にすることで連続洗浄が可能になり混雑緩和に貢献する』『男性小便器の床に汚れにくい床材を敷いて清掃性を向上し、汚れの拡大を防ぐ』といった利点を、数字や科学的根拠とともに盛り込んでいます」
同社総務部主管の壽見眞勝さんは、コスト抑制の観点からも早めに改修できてよかったと話します。
「近年の資材の値上がりや人件費の上昇などを考えると、今後、建築費が下がっていくことは考えにくく、現状維持、もしくは上昇の可能性が高いでしょう。いずれ改修する計画があるなら早めに手を付けたほうが、コスト抑制につながります。その点で今回改修を始められた利点は大きいと感じます」

改修前のトイレ。設備は新しい便器に入れ替えるなどしていたが、照明が少ないため全体に暗い印象でさらに積み重なった床の汚れも目立つようになっていた。洗面台は全面鏡のため隣の人と鏡越しに目が合うことが気になるといった意見も寄せられていた。
「トイレに行くことがリフレッシュになって、『またがんばろう』と意欲が出ます」
「会社が働く人に寄り添ってくれていることがわかって嬉しく感じます」
6階で働く女性社員たちは、新しいトイレをこう歓迎しています。トイレ改修は設備交換にとどまらず、社員と会社のエンゲージメントを強め、就労意欲を高める効果も発揮しているようです。
改修前は照明が少なく全体に暗い印象でしたが、改修後は個室ごとに照明を設置し、洗面台にも顔を照らす照明を取り入れたことでトイレ全体がオフィスと同様の明るさを保っています。また洗面台の鏡は、隣の人が映り込まないように形状や配置を見直し、メイク直しなどがぐっとしやすくなりました。さらに男性トイレ・女性トイレの配置を入れ替える大胆な変更も実施しました。
「以前は男性社員のほうが多かったこともあり、男性トイレのほうがやや広いレイアウトになっていました。女性トイレの混雑緩和を解消すべく、東西2カ所のトイレのうち、東側では女性トイレのほうが広くなるように男女トイレの配置を入れ替えました。この結果、東側女性トイレの個室を2室から3室に増やすことができました」と林さん。
現在、ほかのフロアのトイレ改修も急ピッチで進んでいます。「もともとは1年で1フロアずつ進める計画でしたが、経営トップの決断のおかげで前倒しできました」と丸山さん。
経営トップを動かしたのは、やはり女性の声でした。経営トップが出席した座談会で、女性の社外取締役や女性管理職から「6階のトイレ改修がとても良かった」と話題に上がったのです。それを受けて経営トップが「良い取り組みは積極的に進めよう」と号令をかけたことで、取り組みが加速しました。
本館棟をモデルケースに、ニッパツではグループのほかの工場や事業所でもトイレの見直しが始まっています。丸山さんは「私たちは本社の総務であると同時に、グループ全体の総務でありたいと考えています。今回の経験を生かし、それぞれの工場や事業所が最善のトイレ整備を実現できるよう、トイレセミナー開催による情報提供や改修支援に力を入れていく考えです」と力を込めます。
従業員目線に立ち、より良い取り組みは素早く横展開していく。世界ナンバーワンのばねメーカーの姿勢からは、職場環境づくりのヒントが見えてきます。

1:洗面台はコンパクトで3台の水栓を設置できた。待たずに手洗いができ混雑緩和にもつながる。洗面台ごとに据え付けられた縦長の鏡は、隣の人と鏡越しに目を合わせたくないという声に配慮したもの。
2:個室には連続洗浄できるパブリックコンパクト便器フラッシュタンク式を採用。フックがあり荷物を掛けられるほか、リモコンで『音姫』の音量調節もできる点が好評。
3:身だしなみを整えるのに便利な全身鏡も設置している。
4:カウンター上部に棚がありメイクポーチなど小物の一時置きに使える。
5:スッキリとしたデザインのカウンターは洗面ボウルが深くしっかりと手洗いできる。さらに自動水栓・自動水せっけん供給栓を採用しているため非接触で衛生的。
6:汚垂れが気になる小便器下の床には耐傷性や防汚性をあわせ持つハイドロセラを導入。ニオイの原因となる菌の発生を抑える。
7:ハンドドライヤーは水滴の飛び散りの少ないクリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)を採用した。



| 名 称 | 日本発条株式会社 本館棟 |
| 所 在 地 | 神奈川県横浜市金沢区福浦3-10 |
| 施 主 | 日本発条株式会社 |
| 設計・施工(改修) | 睦建設 |
| 構造・規模 | 鉄筋コンクリート造地上7階地下1階 |
| 延床面積 | 16000㎡(地下駐車場込み) |
| 竣工(改修) | 2024年10月 |
| パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式(掃除口付) CFS498BMC | 小便器下床材 ハイドロセラ・フロアPU(薄型) AB690BR♯HB1 |
| ウォシュレットPS2A TCF5534AU | 自動洗浄小便器(掃除口付) UFS900JCMS |
| ツインデッキカウンター MKWEC1600CPA13BL | 自動水栓 TENA126A |
| 自動水石けん供給栓 TLK06S02JA | LED照明付鏡 EL80016 |
| クリーンドライ吸引・高速両面タイプ TYC430WJ |
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