有馬温泉御幸荘花結び
兵庫県神戸市北区の有馬町にある御幸荘花結びは1994年に開業した7階建の温泉旅館。日本の四季を表現する花をテーマに、一年を通じて季節の移り変わりやその時季ごとの風情を楽しめるよう、食事やしつらえに工夫を凝らしている。「関西の奥座敷、日本の最古泉」といわれる有馬温泉の金泉・銀泉を、大浴場や貸切露天風呂、露天風呂付き客室すべてに引いている。有馬温泉駅から徒歩約10分。1400年の長い歴史を有する「関西の奥座敷」として大勢の人々に愛されてきた有馬温泉。有馬温泉駅から風情ある坂道を歩くと、温泉宿「御幸荘花結び(以下、花結び)」が見えてきます。
花結びでは、築29年が経過した2023年、より快適で今の時代に合った設備にしようと客室や共用トイレ、大浴場の洗面所など水まわりを一斉にリニューアルしました。
もともとエレベーターを更新するために2週間の休館期間を設定していたため、この機会を生かして他の部分も見直していったそうです。
「時間の経過とともにデザインや機能の面で古さが感じられるようになり、水まわりには手を入れたいと思っていたんです。ただ、水まわり全体の改修となると工事にかかる費用がかさみ、手間もかかるので、どのタイミングでやるか悩んでいました。エレベーター更新は良いきっかけになりました」。花結びを運営する株式会社御幸荘社長の片山聡之さんはこう説明します。
公的な補助金制度があったことも改修の後押しになりました。花結びで水まわり改修を計画した時期にはちょうど、宿泊施設の改修を支援する観光庁の事業(※)が実施されていました。
「休館期間に改修を終えるため、補助金の審査に並行して工事に着手しました。有馬温泉内でも事前工事を進めていたのは当旅館のみ。結論が出る前に工事を進めるのは勇気のいる決断でしたが、施設のレベルアップにつながる工事だと確信していましたから、やらないという選択肢はありませんでした」
※ 観光庁「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」
新しい水まわりを考えるにあたって、片山さん自らTOTOテクニカルセンター大阪へと足を運び、設備の一つひとつを見比べて新しいトイレや洗面コーナーのイメージを固めていきました。「どこでも一緒ではなく、大浴場、客室、共用部分と、一つひとつ用途に合わせて設備を選んでいきました」と片山さん。
例えば大浴場の洗面コーナーでは、アンダーカウンター洗面器からトレンドの薄型ベッセル式の洗面器へと入れ替えることで、空間をよりスタイリッシュに演出しています。鏡も壁全体を覆うような全面鏡から、個別鏡に変更。4つのカウンターには間仕切りを入れて、隣の人を意識せずに使えるように配慮しました。
大浴場は2か所あり、それぞれに趣が異なります。洗面コーナーも大浴場の雰囲気に合わせて、一つは金泉を思わせる黄土色を基調とした落ち着いた和の雰囲気に、もう一つは灰白色をベースに華やかな洋風の空間に仕上げました。
共用トイレにも宿泊客がゆったりと使えるようにという気配りがされています。1階の共用トイレは、男性用の小便器の数を3つから2つに削減し、小便器同士を遮る間の仕切りを設けました。間仕切りを格子状にしたことで圧迫感がやわらぐ効果も生まれました。
「男性用トイレでもゆったりご利用いただきたいと、思い切って数を減らして間仕切りを入れました。設計段階では悩みましたが、やってみるとちょうどよいサイズに収まりましたね」
洗面コーナーは深いボウルと壁付水栓の組み合わせで、しっかりと手洗いができるスペースを確保。化粧鏡の下に設置したクリスタルカウンターはすりガラスのように繊細な風合いで、LEDの光を透過して洗面空間を上品に彩っています。
便器はすべてオート開閉機能のあるウォシュレット一体型便器ネオレストを採用。使い方がわかりやすいスティックリモコンが決め手になりました。
「高齢のお客様も多い当旅館にとって、一目で操作方法がわかるというシンプルさは大切なポイントでした」と片山さんは話します。
客室の洗面コーナーも、従来のアンダーカウンター式からベッセル式に変更。陶器ならではの温かみが、客室のくつろいだ雰囲気づくりにも貢献しています。このほかにも比較的広い客室ではトイレ内に手洗いカウンターを設置するなど、部屋のタイプによって水まわりの設計に変化を持たせています。
水まわりのリニューアルから1年が経過し「悔やむ点は一つもありません。すべてに満足しています」と片山さん。
「リピーターのお客様から『水まわりが良くなったね』とお声がけをいただくこともあります。通常、旅館の水まわりでご評価いただくことはありませんから、これはうれしいですね。また水まわりがきれいになったことで、従業員に『この旅館はすばらしい施設だ』という自信が生まれたように感じます。これは思いがけない収穫でしたね」と笑顔を浮かべます。
「旅館にとってトイレや洗面の改修は大きな設備投資であり、一度改修すればそう簡単に入れ替えできません。だからこそ10年、20年先までお客様に快適を提供できるよう、今できる最善の水まわり設備を取り入れていきたいと考えています」
名 称 | 御幸荘花結び |
所 在 地 | 兵庫県神戸市北区有馬町351 |
施 主 | 株式会社御幸荘 |
設 計 | 株式会社新井組 |
施工(改修) | TOTOメンテナンス株式会社 |
構造・規模 | 鉄筋コンクリート造・地上7階 |
延床面積 | 6266㎡ |
竣工(改修) | 2023年9月 |
ネオレストAS1(スティックリモコン パブリックタイプ/オート開閉) CES9710FC | ツインデッキカウンター スペースアップタイプ(電気温水器3L/自動水石けん供給栓)MDWCC |
ハイドロセラ・フロア_AB680BR | 自動洗浄小便器 UFS900JS |
コンパクトバリアフリートイレパック UADCZ01L1C1ANN1BA | ウォシュレットAP2AK TCF5840AUPN |
ハンドドライヤー吸引・高速タイプ TYC430WJ | ベッセル式洗面器 LS706、LS716 |
シングル混合水栓GRシリーズ TLG02308JA | LED照明付鏡(化粧照明タイプ) EL80019 |
シングル混合水栓 GEシリーズ TLG07303J | 自動水石けん供給栓 TLK08S05JA |
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