レスピラシオン｜石川県

respiracion（レスピラシオン）

2017年、本場スペイン、バルセロナのミシュラン星付き店で修業したシェフらによってオープン。店名の「respiracion（レスピラシオン）」はスペイン語で「呼吸」を意味し、お客さまにとって呼吸のような存在になりたいとの思いから付けられた。店内は、木の風合いを生かした落ち着いたデザイン。蔵を改修した待合スペースも用意され、あえて照明を落とした特別な空間がコース料理への期待を高めてくれる。

　2017年、石川県金沢市にオープンしたスペイン料理レストラン「レスピラシオン」。10席だけの完全予約制で、予約は数カ月待ちという人気店です。地元の食材を生かしたこだわりの料理に加え、同店の特徴となっているのがその建物。明治初期に建てられた町家を改装して店舗としています。

「せっかくの歴史ある建物ですから、当時の柱や梁を生かして、デザインはシンプルにしています。空間のあり方も店の印象を左右する大事な要素。それはトイレにもいえることです」

　オーナーシェフの梅達郎さんはそう話します。そして、設計を担当したハルナツアーキの村梶直人さんが続けます。

「例えば床は、店内もトイレもクリア塗装を施した同じモルタルにして一体感を持たせました。華美にならないよう素材を厳選し、全体を落ち着いた雰囲気に仕上げています」

　トイレは、男性トイレ、女性トイレが1つずつ。店舗面積は約90㎡とのことですから、男女共用のものを1つという選択もあり得ますが、「当初から男女別は絶対というご要望でした」と同じく設計を担当したハルナツアーキ村梶招子さんは言います。

「特に女性は用を足すだけではなく、化粧直しもする。ポーチやかばんを持って入ることも多い。それを考慮した設計にしてほしいとのことで、私たちは限られたスペースを有効に使って、イメージを具現化しました」

　実際、女性トイレには十分に荷物が置けるカウンターが設置され、大きめの鏡やシンクも採用されています。

「当店は単に料理だけを提供しているとは考えていません。接客の他、お客さまが五感で感じるものすべてを通じておもてなしを届けたいと思っています。また、大切な人を連れてきたお店のトイレがきれいかどうかは招いた側にとって大事な問題。なので『ここでも、もてなされている』と感じてもらえるトイレを目指しました」と梅さん。　レスピラシオンでは、お客さまがトイレを利用するごとに清掃と手拭きタオルなど備品の補充を行っています。なかなか大変な作業のように思いますが、スタッフがそれを忘れてしまうことはないと言います。

「コース料理中心のレストランにとって、実はお客さまのトイレのタイミングを把握するのは重要かつ当然のこと。それに合わせて、調理やサーブの時間を調整する必要があるからです。どなたかが席を立てば、すべてのスタッフはそれに連動して動くため、トイレの整備がされないことはありません」と梅さんは説明します。

　レスピラシオンのトイレがあるのは、客席から離れた奥まった場所です。「これも、おもてなしの一環」と村梶直人さんは言います。「席からトイレの出入りが見えるとやはり気になるし、お店の雰囲気を壊しかねません。設計上、トイレの位置は他のスペースとの兼ね合いで決められることもありますが、今回は明確な理由があるレイアウトになっています」。

「加えて、レスピラシオンではこのレイアウトによってトイレの〝音の問題〟も解決しています。客席と距離を取り、三方を壁で囲むことで極力音が漏れないようにしているのです」と村梶招子さんも話します。

　その他、女性トイレには綿棒やマウスウォッシュを置くなど、こまやかな配慮がなされたレスピラシオンのトイレ。それは、真にお客さまの目線に立ってつくられた空間といえます。

「お客さまが当店に来られるのは一生に一回かもしれません。それを最高の思い出にするのが私たちの役割です。ほんのわずかでも気になる点があれば、それがお店全体の印象になってしまうこともありますから、やはりすべてに細心の注意を払いたい。トイレについても、まだまだできることはあるはずです。清掃の方法も、設備や備品も、『これで良し』と満足せず、さらに良い空間にすべく、今後も改善を続けていきたい」と梅さんは言います。

　実は、すでに店舗の改装に伴って、男性トイレのスペース拡大も計画中。オープンから6年、金沢の名店のおもてなしは、これからも進化を続けていきそうです。

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