近年、TOTOの自動水栓のデザインが大きく変貌を遂げつつあります。TOTO独自のテクノロジーと高い意匠性が融合し、あらゆる洗面空間に調和するデザイン水栓のバリエーションが生み出されています。洗練されたデザインと機能性を融合した水栓はどのように生まれているのでしょうか。
デザイナーと開発者の二人に話を聞きました。
──水栓のデザインはどのように進めているのでしょうか。
彭● TOTOのデザインは、「ユーザーが何を求めているか」を知るところから始まります。まずはヒアリングや市場調査などさまざまな観点から情報を収集し、具体的なデザイン戦略を立てていきます。ここにはデザイナーだけではなく開発を担う機器水栓事業部など部署をまたいでさまざまなメンバーが集まり、意見を交わします。デザインというとデザイナーがさっとスケッチを描くイメージもありますが、ロジカルな思考を基に、感性的な要素を加味し、アイデアを検討していきます。
大原● デザインが先か、ものづくりが先かではないですよね。私たちはデザインの方向性が定まってきたら開発視点での意見を伝えます。例えば自動水栓であれば、センサーがうまく反応するように、手を差し出すポイントはこのあたりにする必要があるといった意見をあらかじめ伝えます。ものづくりとデザインが、一緒に市場をみて勉強したり、時にはこういう形状は難しいと意見をしたり、より良いゴールを目指して一緒に走っている感じです。
──近年はデザイン性の高い自動水栓のラインアップが増えてきました。開発にはどのような経緯があったのでしょうか。
彭● ひとつはグローバル市場への対応です。海外の洗面空間のデザインは多種多様で、水栓金具にも空間に調和するインテリア性を求める傾向があります。欧州、アメリカ、中国、日本で好まれる洗面空間のインテリアテイストは、大きく異なっています。これからグローバル市場も視野に入れていくには、自動水栓においても、多様なインテリアテイストに応えられる水栓のバリエーションが必要になっていました。
大原● 最近は洗面空間全体でのデザイン性がより重要視されるようになってきていますよね。例えば自動水栓は周辺商材である洗面器とのバランスや台付、壁付など水栓の設置形態、オートソープとの関係性などが重要となってきますが、これまでの自動水栓では対応しづらく、バリエーションの不足があったなと思います。
彭● そこで課題となったのが、センサーによるデザインの制約です。以前まで自動水栓のセンサーは円形の形状に特化した1種類しかなく、サイズも今より大きかったため、自動水栓を小型化したり、デザインにバリエーションを持たせることができなかったのです。ところが世界的には、より薄く、エッジをきかせたデザインテイストが好まれる傾向が強まっていました。今後、自動水栓を進化させるにはセンサーの小型化が不可欠──。そう考えたデザイン本部の要請により、デザイン水栓のプロジェクトが立ち上がる数年前から小型化センサーの研究開発が進められました。
大原● そのおかげで、現在では数種類の小型センサーが実用化されています。自動水栓を手動水栓とほぼ変わらないサイズにまで小型化することに成功し、丸型や角型などさまざまなバリエーションが実現しました。
彭● センサーの進化が生み出した成果のひとつが、デザイン性の高い自動水栓「コンテンポラリータイプ(オーバル)」です。なめらかな曲面と、スパウトの楕円形状にこだわり、薄いスパウトの中に「ソフトフロー」という水流制御技術も凝縮させ、美しさと使い心地を両立させています。
大原● 自動水栓でここまで薄いスパウトを実現し、さらに使い心地にもこだわっているのは世界でほかにないでしょう。さっと手を伸ばせば水が出て、手を引けば水が止まるストレスのない使い心地は大前提。薄型のスパウトから流れ出る水のなめらかさを叶えるために、吐水口を7個配置しています。吐水口をいくつ配置すればいいのかを検証し、水のなめらかさでは「7個」がベストだという結論を出しました。しかし、当初の設計どおりではどうしてもスパウト内に7個の吐水口が収まらない。そのため彭さんに「あと0.1ミリ余裕をもらえないか」など何度も調整してもらい、試行錯誤を重ねて製品化しました。
彭● 0.1ミリ広げるだけなら問題ないと感じるかもしれませんが、わずかな変更が積み重なると最終的には当初のデザインとはかけ離れてしまいます。オーバルで目指した繊細な楕円の印象を保ちながら7個の吐水口を収納するために、吐水口付近のみ、楕円形の裏側部分をごくわずかに広げています。スパウトの根元部分は楕円形なのですが、吐水口に近づくほどに少しずつスパウトの裏側が膨らんでいるのです。この微細な調整によって、正面から見た際の印象を変えずに、機能を落とし込むことができました。また、この変更が実際に立体になった時にどんな印象を与えるのかなども、デジタルモデラーによる3Dモデリングでシミュレーションと調整を繰り返しました。
大原● この緩やかなカーブを量産化で再現するのはかなり難しく、サプライヤーとともに何度も工法の検証を重ねました。最終的には、楕円のパイプを水圧によってわずかに膨らませる製法を採用してようやく量産化にこぎつけました。
水の流れを整え、透き通った細く均整がとれた吐水の「ソフトフロー」機能を搭載。吐水形状の工夫でなめらかな肌触りを実現し、少ない水量でしっかりと手洗いできる。
──自動水栓の新規開発だけでなく、すでに発売されている自動水栓のモデルチェンジも進めています。このたび新しく「アクアオートBタイプ(以下、Bタイプ)」に「きれい除菌水」機能が搭載されましたが、ここではどのような工夫をしたのでしょうか。
大原● もともと「アクアオートAタイプ(以下、Aタイプ)」は「きれい除菌水」機能を搭載していたため、Aタイプで使っている部品をBタイプでも生かそうと考えました。AタイプとBタイプでそれぞれに部品を変えてしまうと生産効率が落ちてしまうからです。ただ、AタイプとBタイプではデザインが全く異なるので、両者で共通部品を収納するには大幅な見直しが必要でした。
彭● Aタイプのスパウトは丸型です。一方のBタイプは上面がフラットな形のスパウトで、吐水角度も異なります。大原さんにはそれぞれの水栓のデザイン特長を活かしながら専用ユニットを搭載するために工夫してもらいました。
大原● まず、Aタイプ、Bタイプともに共通の部品を搭載するため、吐水口にあるキャップのサイズを小さくし、空いたスペースに専用のユニットを収めるように調整。さらに、水栓をTOTOのどんな洗面器と組み合わせても、「きれい除菌水」を排水口に向かって噴霧するよう、吐水角度を変更しAタイプとBタイプで「きれい除菌水」の着水点を揃える必要がありました。そこは彭さんとの連携ですね。
彭● 吐水口の高さや角度など必要な条件を整理し、Bタイプの持つシャープな印象を損ねないようにスパウトの角度を1ミリ単位で何度も調整していきました。
──自動水栓はさまざまな洗面空間へ広がりを見せています。TOTOの自動水栓がさまざまな洗面空間で採用されているのはどうしてでしょうか。
また今後、商品をどのように進化させていきたいとお考えでしょうか。
大原● デザインの世界には「レスイズモア」、少ないほうがより豊かであるという考えがあります。コンテンポラリータイプの自動水栓は、不要な要素を削ぎ落としシンプルな造形を追求したことで、あらゆる空間へ寄り添うデザインを実現しています。パブリックと言っても、ホテルやオフィス、公共交通機関ではデザインテイストは異なります。それらに幅広く対応できることがコンテンポラリーシリーズの強みです。
彭● まさに、TOTOの技術力とデザイン力のなせるわざですね。TOTOの自動水栓は光の反射の種類を見分ける偏光機能や自己学習機能を搭載し、誤作動が極力発生しないよう開発されています。そのため、さまざまな形状の洗面器との組み合わせが可能。TOTOならではの技術とデザインが合わさって、あらゆる洗面空間に馴染む水栓が実現していると感じます。
大原● 自動水栓はIoTやAIなどの先進技術とも相性が良いので、今後は環境保護や設備管理などにも活用の幅が広がっていくと思います。これからもユーザーの行動や価値観をよく観察し、より使いやすく、洗練されたデザインを追求していきます。
<お問い合わせ>
TOTO技術相談室 ナビダイヤル:0570-01-1010
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