TOTO独自の新しい洗浄システムを用いた「パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式」が、さらに進化しました。タンクがいっそう小型化し、工場や病院、学校、高齢者施設などのトイレにゆとりを生み出しています。さらなるタンクの小型化をどのように実現したのでしょうか。開発者に話を聞きました。
──パブリックコンパクト便器・フラッシュタンク式(以下、フラッシュタンク式)の特長をお聞かせ下さい。
岡田●ご家庭ではタンク式、パブリックな場面ではフラッシュバルブ式のトイレをよく見かけると思います。フラッシュタンク式はその二つの長所を併せ持った、パブリックトイレの「新定番」です。
一度洗浄してから約20秒で次の洗浄ができるので、大勢が利用するパブリックトイレでの混雑緩和につながります。また、タンク式と同じ15Aの給水口径を使えるうえに、フレキホース接続で施工が簡単なのでリモデルにもおすすめです。そしてタンクがぎゅっとコンパクトになっているため、便器の前出寸法が少なく、限られた個室スペース内にゆとりを生み出せます。
フラッシュバルブ式の長所である連続洗浄と、タンク式の長所である節水性や施工のしやすさを兼ね備えた「いいとこ取り」の商品と言えるでしょう。
──なぜ少ないタンク水量で十分な洗浄が可能なのでしょうか。
岡田●秘密は水流の制御にあります。
通常のタンク式は、タンクから水を落とす重力で水流に勢いをつけています。しかし、フラッシュタンク式は限界までタンクを小さくしているため、重力だけでは水に勢いが出ません。そこで、新しい仕組みとしてジェットポンプ技術を採用しました。
もともとフラッシュタンク式ではタンク内の貯水量が3Lと、洗浄に必要な水量4.8Lには足りないため、水道から足りない水を引き込んでいます。その際の直圧を生かし、タンク内の水流を毎分約19Lから毎分約75Lと、約4倍へ増幅加速する(※)のです。
ただし、強い勢いのまま便器へ水を流し続けると便器から水が溢れ出してしまうため、一定の段階で今度は勢いを抑えなければならない。そこで水の流れる力を生かして、洗浄途中から空気を混ぜ込んで水流を抑えています。電源を使わず、すべて水と空気の力で制御しています。
※ 床置大便器の場合。壁掛大便器は約3倍(19L/分→約55L/分)に増幅
──新商品では、従来のモデルより奥行き25㎜、幅30㎜もコンパクトになり、タンク容量は1L少なくなりました。小型化の困難はありましたか。
岡田●大きな課題が、空気の混入方法とタンクに水が残る事象の改善でした。
タンクの容積を小型化したことにより、水道から引き込む水の量をさらに増やさなけれなりませんでした。そうすると従来の空気の混入方法ではうまくいかず、水流がコントロールできなくなってしまったのです。
そこでジェットポンプの機構や、水が空気を吸い込む流体力学の原理を根本から点検。水を引き込むスロートに細工をして一時的にジェットの勢いを増すことで、空気の吸い込み量をアップさせました。そこはうまくいったのですが、今度は開発の最終段階でタンク内に水が残り、洗浄水量が不足する問題が浮上しました。
本来はタンク内の3Lを使い切る計算なのに、洗浄後に100〜150㏄の水が残っていたのです。これは、タンクが小さくなったぶん部品同士が密集し、タンク内の水の流れが滞っていたのが原因でした。
水の通り道を広くしても改善にはつながらず、一時は開発を諦めかけました。最後に改めてタンク内を観察すると、水の流れる〝方向〟に問題があると気づいたのです。さまざまな方向に流れる水同士が衝突し、エネルギーロスが発生。水流を滞らせていました。そこで水の通るスペースは狭くなっても、流れの方向を統一するように変更を加えると、問題が解消。仕様どおりのタンクサイズを実現できました。
わずか100㏄なら洗浄には問題ないと思うかもしれませんが、仕様どおりの性能が実現できなければ、大量生産で品質を管理することはできません。小さな課題も見逃さずに追求することが、商品の品質を保証し、お客様の信頼につながると考えています。
──今後、商品をどのように進化させたいとお考えでしょうか。
岡田●便器の前出寸法を縮小するだけなら、タンクを高くしたり、あるいは幅を広げたりすれば対応できます。しかし、それでは「進化」とは言えません。
タンクを見直すならば、より良いトイレへと進化させることが私たちの使命。開発チーム全員がパブリックトイレの向こう側にいる利用者のことを思って、どうにかしてコンパクト化を実現できないかと挑み続けました。
今回はタンクの小型化に成功しましたが、ここが終わりではなく、改良の余地はまだまだあります。スペースに制約があるパブリックトイレであっても、住宅と同じように広々と快適で、だれもが使いやすいトイレ空間を実現していきたい。そのために、さらなる進化を目指して、開発に向き合っていきます。
すっきりとしたデザイン。一般的なタンク式便器よりも奥行きがコンパクトで、スペースに制限のあるトイレでも空間に余裕が生まれる。立ち座り時の介助がしやすいため高齢者施設などでも採用が進んでいる。
<お問い合わせ> TOTO技術相談室 ナビダイヤル:0570-01-1010 |
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