展覧会コンセプト
懐かしい未来へ向かって
いつかどこかで感じた記憶。
縁側で寝そべっていたときの風の快適さ。
暑い夏、土蔵の中に入ってひんやりとした体感と土の匂い。
薄暗いところ、狭いところの安心感。
寒い冬、暖炉の火を囲んだときの輻射熱の暖かさ。
木でつくられたガラス戸を開けるときの触覚や、無垢の木の床から足に伝わる感覚。
穏やかな山の斜面に気持ちよさそうに佇んでいる集落を見るときの心地よさ。
このような体感の記憶なくして、私は設計することができません。
私にとって設計とは、いままで見たことも感じたこともないものをつくり出す行為ではなくて、すでに見て感じたことを、体感の記憶を頼りにいまに表現する行為です。
そして、世の中が更新し続けるもので埋め尽くされてゆけばゆくほど、建築こそは動かずにじっとしていて、慣れ親しんだ変わらない価値を示し、人びとにとって大切な未来の原風景になってほしいという思いを強くしてきたのです。
この展覧会ではそんな私の思いを、みなさんが体感してくれることを心から願っています。
堀部安嗣