ギャラリートーク開催報告
第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展から1年半余りが経過したいま、その経験から得られた手応えや確信も踏まえつつ、各々のプロジェクトや日々の活動についての実践的で充実したトークが繰り広げられました。冒頭ではヴェネチアを振り返り、会場での準備の様子やパビリオンを訪れた方々の反応なども紹介。それぞれの作品と思想の集合体としてひとつの会場をつくり上げた充実感も感じられました。
第1回:「使い方を引き出す建築」
「使い方を引き出す建築」と題したプレゼンテーションでは、西田氏の、200人の留学生を受け入れる学生寮において、集まる単位を小さくすることで選択肢を与えるという事例。中川氏は地形のもつ特性や既存の環境を生かし、敷地をリノベーションさせる提案。また青木氏は、北海道という自然環境の中で空気層を介したふたつの異なる空間を配置することで、季節に合わせて生活空間を伸び縮みさせる住宅の提案。さらに家成氏からは、建築をつくるだけでなく自らも入居し運営にも参画することで、それぞれのテリトリーを生み出しながらコミュニティをつくり上げてきた事例が紹介されました。
変わりゆくニーズや環境に呼応し、課題解決しながら、ユーザーが主体的に振舞える空間づくりが行われている様子が伺われました。
第2回:「日常からの抽出」
第2回のテーマは「日常からの抽出」。自然エネルギー、空間が持つ力、人々が集まる場から生まれるエネルギーなど、私たちを取り巻くさまざまな「資源」を生かしながら建築を作り上げていくプロセスが語られました。
トップバッターの常山氏は、リノベーションによってシェアハウスに生まれ変わった2つに事例を通して、かつての建物から「愛着を引き出す」手法について。中川氏は、温熱環境など環境工学と建築デザインをどのように融合させてきたのか。また増田氏は、場所をいかに読み解き、その環境を受け入れながら、空間自体の性質をも変えていくという提案。金野氏からは、地域住民との対話から生まれる、新しいコミュニティのあり方を、それぞれの事例を通して解説いただきました。
また、2月16日(金)のシンポジウムで槇文彦氏より発せられた、「共感」というキーワードに呼応する議論も繰り広げられました。
アリソン理恵氏
金野千恵氏
常山未央氏
増田信吾氏
中川 純氏
第3回:「暮らしとマテリアルをつなぐ」
第3回のトップバッターは成瀬・猪熊建築設計事務所。 成長経済が終わりを告げ、ただ待っているだけでは仕事の獲得が難しくなるなか、社会の要請に応え柔軟なプロジェクトとのかかわり方を実践。人びとの生活の役に立つ建築を実現するため、時に建築設計に捕らわれない新たな請負のモデルを紹介しました。403architecture [dajiba]は静岡県磐田市に数多く残る、農家に典型的な住居形態を現代の生活用式にあわせてリノベーションした事例を紹介。能作淳平氏は、五島列島最南端の島・福江島にある古民家を、カフェとゲストハウスを併設した私設図書館にリノベーションした事例を紹介。さんご漁で栄えた島の産業や土地の自然を生かすことにより、改めて島の良さを浮き彫りにしています。能作文徳氏は自宅兼事務所として購入したバブル期の住宅を、自らの手でリノベーションしている現在進行中の現場を報告しました。
これらのプレゼンを踏まえたディスカッションでは、モデレーターの能作文徳氏が「建築家として今後、いかに空間をデザインするのか?建築家にしかできないこととは何なのか?」といった問題を提起しました。これらの問いに対し、未来へのビジョンが見えづらい現代ではあるが、それぞれの立ち位置から社会へアプローチし、建築を通して価値を伝達することの大切さが議論されました。そして与えられた課題の中で人々に寄り添い、ともに試行錯誤しながら実践している姿勢が伺われました。
第4回:「The Presence of the Time」
ギャラリートークの最終回のテーマは「The Presence of the Time/時間の現前」。1980年に開催された、「第1回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」のテーマ「The Presence of the Past/過去の現前」にヒントを得たもので、「Past=過去」を振り返るだけでなく、「Time=時間の流れ」も併せて考えてくというものです。
miCo.が手掛けたのは、海と山に囲まれた葉山に立地する住宅のリノベーション。極めて明快な空間構成を有する建物自体の持つポテンシャルを生かしながら、周囲の自然とのつながりを大切にした事例を紹介しました。仲氏は「集まって住む」をテーマに、事務所と自宅、そして長屋を併せ持つ共同住宅において、「人の交流」と「エネルギー・資源」のふたつの循環を実現した事例を紹介。坂東幸輔氏と須磨一清氏が設立したA Nomad Subは、新築、リノベーション、内装、プロダクトから時に施工までさまざまな建築用途を手掛け、クリティカルに新しい価値を提案してきた数々の活動を紹介しました。伊藤暁氏は、神山町における土地活用の変遷を紹介。時代のニーズや制度の変化にあわせて柔軟に対応させることは肯定しつつも、建築がそれらの変化に適合しようとし過ぎるあまり、変化の速さの違いから逆に社会との乖離を生じることへの問題を提起しました。
後半のディスカッションでは、現代の建築が人間中心になり過ぎていることへの危惧から、人が本来持っている環境に順応する能力を再認識し、さまざまな可能性を広げていくことの大切さにまで話題が及びました。