九州八重洲の前身・九州八重洲興業は、1948年に東京で創業した八重洲興業の九州支店からスタートした。八重洲興業は、戦後の混乱期から戸建て分譲を手がけていた開発・分譲の草分け。その伝統を引き継ぐ九州八重洲興業の土地の開発力・情報力が評価され、西部ガスグループに入ったのは2008年のことだった。「住宅について、私はまだまだ素人なんです」と笑う九州八重洲社長の山口元嗣さんも、その際に西部ガスからやってきた。山口さん自身は「社員みんなががんばってくれているから」と謙遜するが、社長就任以来、さまざまな改革を行って業績を回復させている。
九州八重洲
代表取締役
山口元嗣さん
取材・文/市川幹朗
写真/山下恒徳
年間に手がける棟数も範囲も限定する
山口さんの改革を一言で表すならば「量から質へ」の転換といえるだろう。「お客さま第一主義」や「現場第一主義」は、言葉にすると基本的なことに思えるが、徹底するにはまず社員の意識改革が必要になる。山口さんは、注文住宅の依頼に対して「調印式」「地鎮祭」「上棟式」「引渡し式」の4つを儀式化し、社長自ら参加する。いずれも家づくりのなかで大きな節目であるとともに、お客さまにとって人生の一大イベントだ。そこに社長を筆頭にスタッフや職人たちが参加して喜びを分かち合うことで、お客さまにとって忘れられない思い出となり、同時にスタッフ・職人たちを「本気」にさせる。
さらに、一軒一軒とじっくり向き合うため、九州八重洲では年間着工数に上限を定めている。現在は55棟。加えて、会社から60分以上かかる遠方での仕事はしない。
「職人たちに継続的に、しかも責任のある仕事をしてもらうには、これくらいの数が適正。距離は、メンテナンスでお客さまに迷惑をかける恐れがあるので、60分圏内としています」
そこには、将来を見据えた戦略があった。
2割受注が減っても揺るがない体制へ
「住宅の着工数が減っていくのは明らかです。だから右肩上がりの成長は目指さない。今より2割、戸建ての受注が減ってもやっていける体制をつくりたい」
九州八重洲のおもな事業は、戸建て分譲、宅地開発・販売、リノベーション・リフォーム、そして賃貸事業の4本柱。このうち戸建て分譲が売り上げの約8割を占める。山口さんは、少しずつでもリノベーション・リフォーム事業と賃貸事業の比率を高めていきたいという。とくにリフォームについては、すでに1800軒を超えるOB客があり、これを掘り起こさない手はない。
「言葉は悪いけど、いわば『売りっぱなし』だった」実態を見直し、社長就任後、すべてのOB客宅を社員総出で訪問。その後も定期的な訪問を続け、着実に信頼関係を取り戻しつつある。37人の社員うち7人も「家守り課」、つまりアフター担当として割り当てているのは、いかに会社としてアフターに力を入れているかを示
している。
博多の中心から60分圏内はいわゆる都市部であり、すぐに行ける距離ではあるが、同時に条件のよい整形の土地が入手しにくい環境でもある。そこで九州八重洲が得意とするのが、写真のようなミニ開発。共用部やセットバックのルールを定め、一軒ではなくまとまって良好な住環境をつくり、それに共感した人に購入してもらう手法だ。デメリットを魅力に変えてしまう手法ともいえるだろう。「もちつもたれつ」の精神を共有して住まう人たちは、九州八重洲がスローガンとする「ふれあいの街づくり・住まいづくり」を体現し、10年後、20年後、やがて再び九州八重洲の大切なお客さまとなる。
小まわりのきく会社として信頼される存在であり続けたい。山口さんの方針は家余りが確実とされる将来に向けて、住宅会社のひとつの道筋を示している。
本社所在地 | 福岡県福岡市 博多区東比恵1-5-5 |
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電話 | 092-472-2888 |
代表取締役 | 山口元嗣 |
会社設立 | 1948年 |
従業員数 | 37人 |
事業内容 | 住宅団地およびマンションの開発販売 住宅の設計、施工、販売 造成工事の設計、施工 ビル建築、不動産の 売買斡旋ならびに賃貸管理 |
売上高 | 26億1,300万円(2015年3月期) |
TOTO使用機器 | ・キッチン CJ ・浴室 サザナSタイプ1616 ・トイレ ZJ ・洗面所 SQシリーズ |
Yamaguchi Mototsugu
やまぐち・もとつぐ/1952年佐賀県生まれ。75年西南学院大学商学部経営学科卒業。同年、西部ガスに入社し、北九州支社営業部長、長崎支社総務部長などを歴任。08年九州八重洲興業の西部ガスグループ入りに伴い、同社社長に就任。「八重洲のじいじ」としてお客さまとの密接な関係を自らつくりつつ、同社の家づくりをけん引する。