特集/ケーススタディ4

建築家がもつ知恵を買う

―― 髙木さんの仕事は、後はどれだけ賃料をとれるかですね。
髙木 高くとろうということではなく、いかに安定してとれるかが大事です。地域の相場をはるかに上まわるというのは無理ですから。
長田 そこが髙木さんの斬新なところですよね。建築家をプロモートして集合住宅を建てようとする人はたいていデザインをつければ、その付加価値で家賃が高くとれるだろうと考えるのに対して、そこはまったくゼロですから。そういう意味では、僕たちはなんで呼ばれているのかよくわからない(笑)。
―― デザインはタダだということでしょうか。
長田 というより、あってあたりまえで、建築家のネームバリューで家賃が高くとれるものではないというのは徹底しています。
―― こういう仕事が将来行き詰まるといった不安はないですか。
髙木 いずれはあるかもしれませんが、昭和30年代にできた分譲マンションで解体された建物はまだ1棟もないんです。スクラップ・アンド・ビルドは悪いと言うけれど、ひどいものは建て替えたほうがいいし、そういう仕事はどんどん増えるんじゃないでしょうか。
―― 髙木さんはデザインというよりは、建築家がもつ知恵を買っている気がしますね。建築家の起用のしかたに変化はありますか。
髙木 あんまり変わってないですね。だいたい向いている人にしか頼みませんから、任せた後はほとんど何も言いませんし。
長田 でも、プレッシャーは抜群にあります(笑)。メディアの注目度も高く、仲間内の建築家もみな意識して見ていますから、スマッシュヒットを打たなきゃと。TPOとかかわったことで集合住宅の世界で開花し、新しいプロトタイプを生み出した人は大勢いますが、谷内田さんの1.5層のアイデア(「tuft」(05)・「FLAMP」(07)など)にしても、若松均さんの「明大前の集合住宅」(08)の中庭付き長屋にしても、建築家が1対1でクライアントを説得するのはかなりしんどいと思う。建築家の知恵が髙木さんを通じてモノに変わり、世の中に出ている感じがします。将来、集合住宅のプランの歴史を誰かがまとめようとしたら、きっとTPOにかなりの点数の図面を借りに行くことになるんじゃないでしょうか。
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