藤森照信の「現代住宅併走」
「遠藤邸」 設計/遠藤剛生

 たまたま講演に出かけた神戸芸術工科大学で、教授の遠藤剛生展を開いていたから一巡し、作品のひとつを見なければならないと決めた。遠藤さんといえば関西の集合住宅の名手とばかり思っていたが、展覧会にはトンデモナイ個人住宅が展示されていたのだ。
 で、遠藤剛生邸を訪れた。道の際から打放しコンクリートの壁が立ち上がり、1階の中央に開いた縦長の通路をちょっと入ると壁に当たる。正面から眺め、縦長の凹みは見えれどドアの見えない打放しの家。ドアは突きあたりの左手の壁に付いている。
 平面図を見てもらえば、この家の平面とファサードの関係はすぐわかる。間口が狭く奥行きの長すぎる短冊状の敷地条件を逆手にとり、平面の真ん中に廊下を貫き、その廊下を巧みに生かしてトップライトから光を採り込み、左右の部屋に振り分けて注ぐ。短冊敷地をあてがわれたら、誰だって真似したくなる原型的平面にちがいない。
 できて36年になるのに、どうしてこれほどの住宅が建築界ではそう知られていないんだろう。というか、どうして私は知らなかったんだろう。わが情報の片寄りを認めねばなるまい。東京中心のうえ、遠藤邸が発表された今はなき『建築文化』誌との付き合いは薄かった。加えてもうひとつ、36年前、現代建築に目を向けまいと決め、歴史研究に没頭していた。

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