特集/ケーススタディ1

建築家に要望や条件を的確に伝える

―― 都留さんが大島さんに出会ったのは、どのようなきっかけでしたか。
都留理子 2004年に自宅「下作延K」を設計し、雑誌に掲載されたのを大島さんの娘さんが見られたことでしたね。
大島 建築の設計をしている娘が、「この住宅は見てみたい」と言うので、連絡してみました。若い建築家に、作品がよさそうというだけでコンタクトすることはありませんから、都留さんは例外と言えますね(笑)。もちろん、お会いして人柄もよかったわけですが。
都留 ちょうど「勝浦M」のプロジェクトでは転換点にあり、設計者を替えようと思われていたようで、2者のコンペ形式で声をかけていただきました。
大島 どの案件でもコンペをしているわけではないのですが、このときはクライアントの要望もあってコンペ形式としました。当初の設計者は、クライアントの求めるものとのズレが大きくなってきたことと、予算がかなりオーバーすることから、やむなく断念したのです。
―― この家は別荘として計画されていますが、条件としてはどのようなことがありましたか。
大島 敷地が高台にあるので、2階のリビングや浴室から海を見たいということが最大の要望でした。場所性を生かしてほしい、と都留さんにお願いしました。
都留 クライアントには、私と同世代の4人の息子さんがいらっしゃいます。それぞれの家族が遊びに来て、バーベキューなどアウトドアの活動をするだろうなと予想しながら案を考えていきました。クライアントへのプレゼンテーションの後に案を少し修正したのですが、その際に2階のワンルーム空間の上部にぐるりと連続窓をまわしました。敷地をもう一度見て、海とは反対方向の背後に広がる山の緑を取り入れようと考えたためです。
大島 構造の検討に、意外と手間取っていましたね。
都留 1階がRC造で2階が鉄骨造の混構造としているためですね。木造ではどうしても壁が出てきてしまい、2階の窓が途切れてしまうので鉄骨の柱梁で成り立たせています。配線を壁内に納めることができないので天井に照明を設けませんでしたが、クライアントは海外の住宅での照明配置にも慣れていたようなので抵抗はとくにありませんでした。
大島 リビングにいて、外の様子が360度見える気持ちよさがありますね。海への眺望も、クライアントは気に入っておられるようです。
都留 半屋外のような空間を1階でも2階でも提供したいと考えていました。2階の開放的なボリュームの下は1階個室の軒下になっていて、建具を開け放つとどこから家なのかがあいまいになります。個室とつながる玄関スペースも、外のように感じられる空間です。
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