温熱環境の長期的な性能を確保することは、野沢さんたちが自らに課したもうひとつの命題だった。屋根に付けられた集熱ガラスパネルは、太陽エネルギーを利用するパッシブソーラーシステムによる暖房・換気システムの一環。冬場は軒下から取り込んで集熱パネルを通してあたためた空気を床下に送り込み、基礎に蓄熱させつつ床の吹出し口から部屋に送るもの。夏場は朝晩の涼風を取り込み、同様に室内に送る。ローコストでありながら温熱環境を整えた家をつくろうとしたのは「住宅は骨と皮とマシンからできている。設備もすべて一体で考えないと室内環境が偏ってしまう」という野沢さんの考えからである。
屋根の三角形は、断面で正方形を斜め45度に傾けた結果である。冬場の熱の取得で効率を上げるためだ。「矩勾配とすることによる集熱の効果は期待以上。通常に比べて2~3割は高い温度になっています」と野沢さん。性能を追求したそのシルエットがデザイン面にも生かされ、独特の屋根形状となった。
「一般の購買層が、温熱環境の整った家を坪50万円で買うことのできる意義は大きい」と野沢さんは語る。
「ゼロエネルギー住宅は、太平洋側の地域では手が届くものになっていることが、『木造ドミノ』をつくって実感したことです。あたためた空気を循環させ、室内気候を均一にする仕組みさえ組み込めば、暖房に関して基本的な環境は整う。これで足りないところは、付加断熱や太陽電池、燃料電池などの装置で補えます。こうしたメニューは機器や素材の開発で整ってくることでしょう」
この「木造ドミノ」の成果に、低炭素社会を目指す東京都が注目しているという。各地の工務店からの問い合わせも多い。そこで、野沢さんたちは「木造ドミノ研究会」を発足させた。いわゆるフランチャイズ展開ではなく、工務店がノウハウを学びながら、地域の気候や材料を取り入れて家づくりを行おうとする研究会だ。
技術やコストの公開に、工務店として不安はないのだろうか。迎川さんは「市場にある設備システムのようなイメージです。技術を独占せずに公開してみんなで使いきる。これが結局は社会の利益につながると思うのです」と語る。現在は福島から熊本まで約20社ほどが参加。柔軟な思考に基づいたシステムにより、東京の郊外型居住モデルは、全国区へと発展している。
サポートとなる構造体が長い期間にわたって保全されつつ、インフィルは更新され使いつづけられる。これによって、敷地とその周辺は豊かに成熟していく。野沢さんたちは、住宅ごとの生活環境を長く確保することが将来の街並みに寄与することを感じ取っている。