特集4/ケーススタディ

「自由な平面」が長生きする家をつくる

 野沢正光建築工房と半田雅俊設計事務所、そして相羽建設が考案し建設した全25棟の「木造ドミノ」は、東京都主宰のコンペから生まれたものである。70年間の定期借地権を活用して分譲される住宅。野沢さんの発想は、最低70年間は建て替える必要がない、長寿命で快適な生活環境を適正なコストで提供する、ということ。その結果、野沢さんたちが開発したシステムは、サポート(スケルトン)・インフィルの考えに即したものであった。「木造ドミノ」というネーミングは、ル・コルビュジエの提唱した「自由な平面」にちなむものだという。
 木造住宅で、フレキシブルな間取りを可能にするのは難しい。在来木造住宅は可変性に富むといわれるが、間取りに合わせた間仕切り壁に耐震要素をもたせていることがほとんど。子どもの成長に合わせた間取り変更や、水まわり空間の更新といった一般的なリフォームでも制約を受けてしまう。
 野沢さんたちは、在来軸組工法にパネル工法を組み合わせて合理化した工法・構造を検討し、建物の外周と床面だけで固める方式を導き出した。構造の性能を確保しながら、間仕切りを適宜変更できるようにするためである。1、2階の床面は構造用合板28㎜厚を張ったうえに、パインフローリング材を施工。2階天井面や屋根面でも構造用MDFを張り、剛性を高めている。軸組の最大スパンは2間で、柱は120㎜角が基本。4×5間・1階あたり約20坪のプラン内で耐力壁はなく、耐力要素は軸力を受ける2本の180㎜角柱が現れるのみ。すべての柱は長さ3mの管柱。180㎜角の柱だけは上下階でずれないように柱同士がつながれ、鉛直荷重を基礎へダイレクトに流す。
 基礎も、木造としてはユニークな形状をしている。ベタ基礎で、外周にまわった立ち上がりと、180㎜角の柱がのせられる独立基礎のような立ち上がりがあるだけのシンプルなもの。部屋の形状に合わせた布基礎はなく、玄関以外は水まわりも含めてフラットな底版をしている。床下の高さは人が入ってメンテナンスできるスペースが確保されている。また、水まわり設備の更新性を高めるため、床下にはヘッダー方式の配管システムが設置された。水道管から引き込んだ水を、設置したヘッダーで受け、そこから配管を各設備機器へと1本ずつ通すものである。排水もいったん床下で集合させ、まとめて1カ所から外部に出した。排水枡がひとつですむので、外部土工事を軽減することにもなった。
 壁をパネルで固める工法では、配管と同時に、配線の処理が課題となる。管や線を耐力壁の内部に引いておくことができないからだ。それで「木造ドミノ」では長押状の電気配線レールを造作でつくり、デザイン的に無理なく壁に巡らせた。上部はオープンになっているので、必要な場所で線を引き出すことができる。床面に近い位置でコンセントが新たにほしい場合は、付け柱のような木材を壁にはわせ、その裏に線をもってくる。給排水配管や電気配線を軀体と絡めていないので、メンテナンスや更新がしやすい。とくに、出っ張りのない基礎とあいまって、木造住宅で水まわりの位置や大きさまでも自由にできるのは画期的である。

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