野沢正光さんは、近著『パッシブハウスはゼロエネルギー住宅』(農文協)のなかで、そうした事情をわかりやすく、丁寧に説明している。建築家が「目に見えること」に強い関心を払いつづけながら、「目には見えないこと」を二の次にしてきたことを、驚くべき事実を積み重ねながら、静かに、しかし鋭く指摘している。
目に見えないことは、伝わりにくい。室内気候の快適さを多様な尺度による計測データでどれほど正確に示したとしても、理解できる人はほとんどいない。再現して追体験するのも困難である。まして個人住宅の場合には、四季を通した暮らし方そのものにかかわるのだから、快適さの恩恵は住人自身でないと味わえず、判定できないともいえる。
一方で、目に見えることは伝わる。実物や写真を見れば、構成や形態を短時間で正確に把握できる。文章で解説することも容易。写真、図面、文章は複製と再現が可能で、その伝播力はすさまじい。
ゆえに、ビジュアル志向に傾くのは建築家にとってだけでなくクライアントにとっても必然。快適か否かは、個人差という茫漠とした尺度に吸収されてしまい、多少の不快はがまんしてすませてきたのが実態。
とはいえ、少ないエネルギーで快適な室内気候を得ようとするアプローチが、さまざまな形で追求されてきたことも事実である。そのひとつが、野沢さんも開発に加わった「空気集熱型のパッシブソーラーシステム」で、「相模原の住宅(野沢自邸)」はその展開例のひとつだ。