特集3/ケーススタディ

ミニマルという言葉がまだなかった

 西宮さんの発表された作品は案外に少ない。「松山平田の家」(1989)、「焼山の家」(89・2000)、そしてコンペで設計した「三良坂町立灰塚小学校」(95)。
 今回は焼山の家を取材した。写真を見ていただければ「ミニマル」のくくりにこの作品を収めることにそんなに反対の声は上がらないだろう。
 じつはこの住宅は90年代の初頭に一般誌のために取材させてもらっている。そのときの新鮮な印象は頭の中から消えていない。しかし、当時、ミニマルという言葉はコミュニケーションワードとしてあったのだろうか。西宮さんと話し合っても、互いに「記憶がないね」ということに落ちついた。
 モダンデザインは時代性をもたないと思ったことがあった。しかし、あれから数十年、60〜70年代のモダンデザインを基本とした建築を見ると、明らかに時代性を読み取ることができる。装飾性をはぎ取ったデザインといわれていながら、モダンデザイン自体、時代性をどこかに示しているところが不思議といえば不思議だと思う。まして名作として評価されてきた建築にはみごとなまでに時代というくくり、時代の表現を感じさせてくれることがある。すぐれたデザインとはそういうものではないかなとも思う。
 ミニマルはそうしたモダンデザインのなかにありながら、ひときわデザイン性を拒否しているようにみえるけれど、30年の時間を経てみると明らかに2000年代のミニマルと見わけられるだけの何かを身にまとっているようだ。

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