「それは本当に必要か。」と題した増田信吾+大坪克亘講演会が1月21日(火)に開催され、自分たちの設計姿勢にある背景や作品の設計意図をたっぷりとお話いただきました。
予備校で出会い、別々の大学を卒業後、一緒に設計活動を始めた増田氏と大坪氏。
活動当初から、ふたりで毎日つぶやいていた言葉が、展覧会タイトルでもある「それは本当に必要か。」だったそうです。
活動の原点となったのは、最初の作品「ウチミチニワマチ」です。設計したのは、1枚の住宅の塀。家の敷地の内外から少し距離をとって設置された半透明のエキスパンドメタル素材の塀は、レースカーテンのような開放感をもちつつ、プライバシーが確保されています。この塀によって、"家"が"家"以上の広がりをもち、街並みを巻き込み、庭の植生も豊かになって、場所全体が大きく変わりました。設計すべきものは「空間」ではなく「場所そのもの」ではないか、ふたりの価値観が一変した瞬間だったと大坪氏は言います。
そして、増田氏は、書籍『伊勢神宮と日本美』(井上章一著)からある一文を紹介します。
「―原初の神社に社はなかった―」
原始、自然そのものを対象とする自然崇拝(アニミズム)が信仰として広まりました。信仰対象となった岩石「磐座(いわくら)」は、修験者修行の目印となり、人びとが集まる場となっていきました。場所を切り開くストラクチャーとしての「磐座」。本当に必要なものは何かを考える続ける姿勢とともに建築のこれからの可能性をそこに見出しました。
この後、既存の建物に抗わず、敷地自体の自然な成り立ちを目指した「始めの屋根」、隣接する森を眺めるためのベランダ「庭先のランドマーク」、場所の特性を最大限活用して眺望や風通りを工夫した「街の家」、基礎を通して窓の設計を行った「リビングプール」、建物と庭の間に存在する窓を設計した「躯体の窓」。代表的な作品について、建築の部位に着目した作品でありながら、どのように「場」全体に影響を与えているのかが語られました。
作品の[様相]だけでなく、設計に対する彼らの[姿勢]と、場が回りだした転換点[適用]の瞬間が追体験できた、貴重な一時間半でした。(主催者記)