中山氏の講演会は、冒頭こそ竣工間もない「Printmaking Studio/ Frans Masereel Centrum」(ベルギー)の最新現場画像の紹介から始まりましたが、その後は自作の紹介から離れて、自身がこれまでに受けてきた建築だけではない文化や哲学、芸術にまつわる多様な影響を巡りながら紡がれる、ひとつの物語のようでした。
講演は、打ち込むものがなかった高校時代、たまたま観たザハ・ハディド氏のドローイング展をきっかけに建築に興味を抱いたことから始まりました。そこから出会った新しい友人たちの口から聞く耳慣れないミュージシャンやアーティスト、映画について、彼らの会話に加わりたい一心で見始めたそれらがいつしか自分の中で、世界が新しく始まったように思えたこと。とりわけ当時東京に数多くあったミニシアターに通い詰めた体験が、今回の展覧会を、自身が設計した建物のその後を映したショートフィルムの上映会に見立てることに結びついていったことなどが、気取らない言葉で明かされていきました。
映像化された作品のひとつ、事務所として最初のプロジェクトである「2004」の設計が、当時夢中になって調べたひとりの映画監督の本の中にみつけた言葉に導かれるように進められた話。ある山荘の設計が震災を境に行き詰まったとき、建築を好きになって以来知るようになった多様な文化からの影響に助けられた話。講演を通じて、そうした等身大のエピソードたちが、絵本の記述方から音楽の作曲法まで、時には宇宙や哲学の話題を交えながら、けれども誰にも伝わる易しい言葉で結び付けられていきました。
中山氏は、聴講に来た多くの学生や若い建築家に向けて、自身の設計思想を伝えるというよりも、建築という世界を知ることでいかに、自分にとっての文化や芸術、思想や歴史を考える扉が開かれたのか、その素晴らしさを教えてくれたミニシアターでの経験を今回、期間限定の映画館「CINE間(シネマ)」に込めたと講演をしめくくりました。(主催者記)