「樹木」のために「家」をつくる、というテーゼで建てられた代表作「House for Tree」のオーナーもうつ病を患っていたという。風が抜けるオープンスペースの創出と立体化してより人に近づいた「樹木」が、次第にオーナーを元気にし、「家」は近所の人たちが集まる場となった。「家」の躯体は「樹木」のための鉢でもあり、雨水を貯留する鉢でもある。ハノイじゅうに共感の輪が拡がれば洪水のリスクも低減していくのだろう。
カフェ(Banboo Wing)やレストラン(Son La Restaurant)、ミラノ万博パビリオンなどの大空間では構造材としての竹が主役となった。こんなに大量の太径で長尺の竹はどこから持ってきたのだろう、と考えていたら、ギア氏の出身の村からだという。栽培・伐採・加工・施工の専門の職人を自ら雇用し、いわゆる地域振興も担う。ギア氏は多くは語らなかったが、竹はわりとやっかいな材料だ。伐採時期により耐久性や耐虫性が大きく変わるし、あぶり方によっても耐久性が一変する。一見粗野な構造に見えても、竹の性質を知り尽くした上でなければ建築材としては成立しない。竹の束ね方あるいはしなやかな曲げ方は、既存の素材にかたちを与え、シューマッハーの中間技術の体現ようでもあり、奥深い。