ではケレツが全体を考えていないかというと決してそういう訳ではない。「The Rule of the Game」というタイトルが示すように、ケレツはおそらくプロジェクトに取り掛かるにあたり、あらかじめ与えられた特定の環境の全域を俯瞰し、その全体を料理するのに最適な、もっとも効果的でユニークな解を導いてくれそうなルール設定を模索し、想定する作業に相当の時間を費やしている。その上で一度ルールを決めてしまうと、固有の一手一手がもたらすテクスチャとルールとのやり取り、それがもたらす展開の発展性に神経を集中し、脇を見ることによる迷いを潔く切り捨てる。タイトルが“Rule”も“Game”も複数形になっていないこともそうした姿勢へのこだわりではないか。もちろん途中で立ち止まって周囲を見渡し、状況を再考し、ルール設定を再検討することもあるに違いない。俯瞰するときと紡ぐとき、そのコントラストがとにかく明快だ。