32歳で独立してから30数年間、おもに住宅設計と家具デザインの仕事をしてきました。そのあいだに、レストランやカフェを設計したり、小さな美術館や個人記念館などを手がけたりもしましたが、仕事のほとんどは住宅設計でした。
「ビッグプロジェクトには見向きもせず、住宅ひとすじに……」と言いたいところですが、実際には「ビッグプロジェクトの方が、ぼくに見向きもしなかった」というのが本当のところです。ただ、このことは私の「望むところ」でした。もともと、建築家としての私の最大の関心事は「人のくらし」と「人のすまい」でしたから、身の丈を越えた大きな仕事を抱えて右往左往することなく、心おきなく住宅の仕事に取り組むことができたのは幸いでした。
ところで、私の「人のくらし」と「人のすまい」への関心は、「住宅ってなんだろう?」を考えることでもありました。ある時期からは住宅の原型が「小屋」にあるような気がしはじめて、南仏のル・コルビュジエの休暇小屋や、ロンドン郊外のバーナード・ショーの小屋や、岩手県花巻の高村光太郎の小屋など、古今東西の小屋を世界各地に訪ね歩く旅を繰り返してきました。そして、8年ほど前からは、エネルギー自給自足を目指す私自身の小屋(「Lemm Hut」2005年、長野県)で、自然の恵みと自分自身に向かい合う質素な小屋暮らしを愉しむようになりました。
「小屋においでよ!」と題した今回の展覧会は、そんな小屋好きの建築家が敬愛をこめて「小屋」に捧げるオマージュです。
会場では、長いあいだ、私の心の中に住み続けてきた古今東西の小屋の名作について語るとともに、これまで私の手がけてきた「小屋」と「小屋的な住宅」を紹介します。そして、中庭にはこの展覧会を象徴する ひとり暮らしのための「究極の小屋」を展示します。
この展覧会が、来場者のひとりひとりにとって、小屋を通じて「住宅とはなにか?」を考えるまたとないきっかけになってくれますように……。