TOTO

中村好文展 小屋においでよ!

展覧会レポート
小屋にお呼ばれして
レポーター=納谷学+納谷新


TOTOから案内状が届いた時、「あれ? 中村好文さんって、まだギャラ間でやってなかったっけ?」とビックリしました。それ位、僕らの間、いや世間一般的に中村さんと言えば、“その筋”では超ベテランなのです。

「TOTOさん、遅すぎるよ!」と考えながら乃木坂へと足を運びました。



中に入ってみると、この展覧会は大きく5部構成で成りたっていました。

下のフロア(第1会場)は中村さん意中の小屋7戸についての考察です。ここで建築家 中村好文さんのルーツを知る事ができます。

最初の「鴨長明の方丈」では目の部分に仕掛けがしてあり、来館者が自身の目をはめ込む事ができるのです。観光地の顔ハメに目がない僕にはたまらない仕掛けでした。

ちなみに中村さんの講演会は、最初に小話でみんなを笑わせて、ご自分のペースにどんどん巻き込んでいきます。そう、ここでも知らぬ間に中村ワールドに、引き込まれているのです。

意中の7つの小屋を紹介する小屋型ブース
© Nacása & Partners Inc.
それぞれの小屋を紹介する小屋型ブースのディテールにもこだわりが感じられます。安価なスギ板とラワン合板で作っていながらも小口の納めや、顔ハメ小窓の引手のつくり、その丁番には小さな磁石を仕込むなど、人が触れるところはさりげなく、むしろ気付かれないように、実はすごく考えているのです。



そしてさらに注目すべきは、中庭に鎮座している今回の目玉商品の小屋、「Hanem Hut」。もう中村さんが住んでいるのではないかというくらいリアルな物でした。それもその筈です、展覧会が終了したら移設して実際に使用するとのこと。はりぼてでは無いのです。

これまでの集大成というべき小屋だということは、入った瞬間に感じました。決して欲張らず、無駄のない心地良いスケール感。全てにおいて、やりきってます。中村さんの言葉を借りると「舐め回した感じ」。とにかく完璧なのです。

中庭の小屋「Hanem Hut」の夜の室内
© Nacása & Partners Inc.
決して便利ではない、どちらかといえば性能の悪い建築。でも「住んでみたい!」と素直に思わせてしまう建築。それこそが本当のことだと思います。

以前、僕の恩師が言っていた「分かるか? 合理主義っていうのは“慣れ”なんだよ」という言葉を思い出しました。オートバイや車もそうですよね。不便でもややこしくて手がかかる方が、男の子にはたまらない。中村さんの建築は、みんなを男の子にしてくれるのです。



さて上の階(第2会場)へ上って行きますと、何やら布で出来た蚊帳のような風通しの良い小屋があります。この中には「Hanem Hut」の図面やスケッチが展示されています。全て手描きで青焼き、味がありますと言ってはいけませんね。昔はこれが普通でしたし、CADなんかよりも物作りへの思いが伝わってきます。昨今、便利になって置き忘れてきた物がたくさんあるように感じました。
第2会場の「蚊帳小屋」には、青焼き図面などが展示されている
© Nacása & Partners Inc.
また両脇の壁には、これまで中村さんが手掛けてきた小屋や小屋的な建物の写真などを展示しています。

入って左側の壁は、ご自身が所有している「Lemm Hut」の施工風景やそこで過ごしている様子などの写真が紹介されています。中村さんのすばらしいところは、ご自分でも8年前から小屋体験をしていることです。これは思ってもなかなか出来ることではなく、とても説得力があります。今度連れて行って下さいね。



最後は、中村さんの声でお話が聞ける映像コーナーです。小さな可愛い椅子達がお出迎え。やはりここでも僕らを子供にさせてしまうつもりです。「Hanem Hut」の職人さん達の施工映像をまざまざと見せつけられます。なんと地鎮祭まで執り行われていたのですね。



3.11以降、世の中が見直した、質素な中にも豊かな生活。中村さんはそんな当たり前のことを、ずっと懇切丁寧に続けてきているのです。

“その筋”の人ですから、小屋の中からちょっと距離を置いて、いわゆる建築業界を見ていたのです。展覧会のポスターのきらびやかな夜景を見おろすように。

今回は展覧会に行ってきた!というより中村好文さんの家にお呼ばれして、お話を聞きに行った感じ。

いや「小屋にお呼ばれして」ですね。
納谷学 Manabu Naya
1961年
秋田県生まれ
1985年
芝浦工業大学卒業
1985年
黒川雅之建築設計事務所
1987~1988年
野沢正光建築工房
1993年
納谷建築設計事務所設立
2005~2012年
昭和女子大学非常勤講師
2007年~
芝浦工業大学大学院非常勤講師
2008年~
日本大学非常勤講師
納谷新 Arata Naya
1966年
秋田県生まれ
1991年
芝浦工業大学卒業
1991~1993年
山本理顕設計工場
1993年
納谷建築設計事務所設立
2005年~
昭和女子大学非常勤講師、東海大学非常勤講師
2008年~
芝浦工業大学非常勤講師
主な受賞
2000年
住宅建築賞 奨励賞(s-tube)
2001年
ar+d賞 入賞(宝珍楼)
グッドデザイン賞 入賞(宝珍楼)
2003年
日本建築士会連合会 奨励賞(宝珍楼)
2007年
第1回JIA東北住宅大賞2006 優秀賞
(能代の住宅)
2008年
第2回JIA東北住宅大賞2007 大賞
(湯沢の住宅)
2009年
第3回JIA東北住宅大賞2008 優秀賞
(八戸の住宅)
JIA北海道支部住宅賞2009 アカシア賞(サッポロアパートメント)
2010年
JIA日本建築大賞2010 日本建築家協会優秀建築100選(湯の山の住宅)
第5回JIA東北住宅大賞2010 優秀賞
(鷹ノ巣の2世帯住宅)
2011年
日本建築士会連合会 奨励賞
(恵比寿の住宅)
グッドデザイン賞 入賞
(トヨタカローラ秋田南店)
JIA日本建築大賞2011 日本建築家協会優秀建築100選
(門前仲町の住宅、鷹ノ巣の2世帯住宅)
2013年
第6回JIA東北住宅大賞2012 奨励賞
(新屋の住宅)
TOTO出版関連書籍
著者=中村好文
写真=雨宮秀也