TOTO

展覧会について
展覧会概要
インドの大学で一人の教授=師<グル>に教えを受ける伝統的な教育方法で建築を学んだジェイン氏は、アメリカに渡って欧米式の建築理論を学びアメリカとイギリスで実務経験を積んだ後、出身地のムンバイにてスタジオ・ムンバイを設立、建築活動を開始しました。以来、インドに代々伝わる伝統的な技能を用い、文化風土を取り込みながら、豊かな質感と空間性をもった作品をつくり続けています。
スタジオ・ムンバイの活動の特徴は、敷地の造成から設計、施工といった一連の工程すべてを、建築家と熟練工からなる人的ネットワークにより、手作業で行なうことにあります。スタジオ・ムンバイのワークショップでは、インド各地出身の有能な職人たち(大工、石工、鉄工、金工、井戸掘り工など)約120名が住み込みで働き、ジェイン氏の指導の下、地勢や気候を読み、井戸を掘って水源を確保し、地元由来の素材とそれに適した工法を用いて建築をつくっています。

先祖代々口伝によって伝わる伝統技能を受け継いだ職人たちの確かな技術力は、乾期の猛暑と雨期のモンスーンという厳しい気候条件に耐え得る建物には不可欠なものです。 彼らの知恵と技能を充分に活かしつつジェイン氏の深い思索に導かれて生まれた建築は、その地での快適な生活を約束しつつ、風景と調和した豊かな詩情を湛えています。

さらに、ジェイン氏は職人たちにスケッチブックを与え、ドローイングの描き方を教えています。教育を受けられず文字も書けない職工たちが、日々の作業と並行して建築を「設計する」ことを学んでいきます。彼は、スタジオ・ムンバイを率いる建築家であるとともに、異能集団をまとめる指揮者であり、彼らの才能にドライブをかける名監督であり、さらに建築を通した教育者でもあるのです。

ジェイン氏は、世界各地の研究者・建築家たちと交流をしながら最新の知識や思想を吸収し、インド各都市でのリサーチによってインドの現在をとらえ、常に職人やパートナーたちと対話を交わし続けることによって、多種多様な才能や技術を正しい方向に導き、思想の裏づけをもった確かな建築作品へと昇華させています。
本展覧会のタイトルである<Praxis(プラクシス:実践、自然や社会に対する人間の働きかけ。抽象的な「理論」に対応する言葉として用いられる>とは、「Idea(理念)からPractice(実行)にいたるまでのすべての道程」だと、ジェイン氏は語ります。建築をつくりたいという意思をもつすべての人に門戸を開いたオープンなコミュニティの中で、さまざまなアイデアや実践を行きつ戻りつしながら最適なゴールを見出していく、スタジオ・ムンバイの存在と活動そのものをあらわす言葉です。
本展覧会では、スタジオ・ムンバイで建築を検証するために実際に使われている素材、模型、スケッチ、モックアップなどをムンバイから移送し、東京という環境のなかで再構築した「Studio Mumbai in Tokyo」を提示します。スタジオ・ムンバイの空気、光、音を五感から感じ取り、ジェイン氏が実現している世界を体感していただくとともに、Praxisの道程をドキュメントします。
TOTOギャラリー・間
会場写真
[1] エントランス
© Nacása & Partners Inc.
[2] 第1会場を入って左側を見る。左の壁の中央に、スタジオ・ムンバイの全メンバー(約120人)の集合写真。投影されている動画(27分30秒)は、本展覧会のさまざまな展示物をスタジオ・ムンバイの職人が作成している様子
© Nacása & Partners Inc.
[3] 第1会場全景。背丈ほどある2つの棚、2つの作業机(working table)、2つの模型台などで構成されている。壁面はスケッチや図面や写真などによって埋め尽くされているが、よくみるとプロジェクトごとにストーリーが追えるよう考慮されてピンナップされている
© Nacása & Partners Inc.
[4] 第1会場中央におかれた「working table 01」。スタジオ・ムンバイ製の椅子に座って、テーブルに置かれたスケッチブックやスタジオ・ムンバイ手作りの写真集などを手にとって見ることができる
© Nacása & Partners Inc.
[5] 「working table 01」の上に置かれた「ターラ邸」(2005年)のブロンズ製の模型。中央でカットされていて、地下にある階段井戸と上部建物との関係がわかる
© Nacása & Partners Inc.
[6] 現在設計中の「アーメダバードの住宅」(2011年~)の12分の1の模型。実際に使う予定の日干しレンガと同じ素材で、ひとつひとつ手作業で積まれている。展示物であると同時に、実際につくる際の接合方法やディテールを検討するための実利的な模型でもある
© Nacása & Partners Inc.
[7] 「palmyra table」と題された模型台。「パルミラの住宅」(2007年)のブロンズ製の模型が置かれた天板の下には、大工が使うノミやカンナなどの道具が置かれた引出し。模型台下部は2010年のヴィクトリア&アルバート博物館での展示のために作成した石膏パネルのサンプル
© Nacása & Partners Inc.
[8] 「パルミラの住宅」のブロンズ製の模型。一本一本、丁寧につくられた椰子の木も見所
© Nacása & Partners Inc.
[9] 「working table 02」の上には、「パルミラの住宅」の小さな軸組み模型と、木組みを検討するための大きな軸組み模型などが置かれている。壁際の床の上には、「パルミラの住宅」の壁面ルーバー及び下見板のモックアップが置かれている
© Nacása & Partners Inc.
[10] 中庭全景。さまざまなモックアップが屋外に展示されている。柱に蛍光灯がラフにとりつけられただけの照明器具は、インドでよく見かける、木に蛍光灯を直接とりつける庶民的な方法にならったもの
© Nacása & Partners Inc.
[11] 第2会場全景。2つの棚、2つの作業机、3つの模型台、ビデオ・テーブル、テープ・ドローイング・スタンドなどから構成されている。ちなみに壁面を覆っているベニア板も、インド製のものを日本まで運んできたもの
© Nacása & Partners Inc.
[12] 「working table 04」に置かれた「コッパー・ハウスII」の大きな模型。2階部分の壁面と屋根を覆う銅版の割付を検討した跡などが見て取れる。奥の壁面の左には、1階の縦格子部分のモックアップ
© Nacása & Partners Inc.
[13] 「working table」に置かれている赤い布張りのスケッチブックには、大工などの職人たちによって日々描かれたドローイングが詰まっている
© Nacása & Partners Inc.
[14] 第2会場の奥から見た全景。手前にあるのがテープ・ドローイング・スタンド
© Nacása & Partners Inc.
[15] 薄いベニア板の表面にマスキングテープを貼り、その上にペンで描いたテープ・ドローイング。大きな図面を手早く、経済的に作成するため、職人たちが生み出した手法
© Nacása & Partners Inc.
代表作品
[1] Tara House(Kashid, Maharshtra, India/2005)
© Hélène Binet
[2] Utsav House(Satirje, Maharashtra, India/2008)
© Hélène Binet
[3] Palmyra House(Nandgaon, Maharashtra, India/2007)
© Hélène Binet
[4] Copper House II(Chondi, Maharashtra, India/2011)
© Hélène Binet
[5] Studio Mumbai workshop(Nagaon, Maharashtra, India/2005)
© Hélène Binet
展覧会情報
展覧会名(日)
スタジオ・ムンバイ展 PRAXIS
展覧会名(英)
STUDIO MUMBAI: PRAXIS
会期
2012年7月22日(木)〜9月22日(土)
開館時間
11:00-18:00(金曜日は19:00まで)
休館日
日曜・月曜・祝日・夏期休暇2012年8月12日(日)〜20日(月)
ただし2012年9月22日(土・祝)は開館
入場料
無料
後援
社団法人 東京建築士会
一般社団法人 東京都建築士事務所協会
社団法人 日本建築家協会関東甲信越支部
一般社団法人 日本建築学会関東支部
特別後援
インド大使館
関連プログラム
2012年7月12日(木) 17:30開場、18:30開演、20:30終演
TOTO出版関連書籍
監修=ビジョイ・ジェイン+ジョセフ・ファン・デル・ステーン
編集=TOTO出版
協力=スタジオ・ムンバイ