TOTO

シンポジウムレポート
セッション1:2010年11月19日(金)
建築⊆自然、自然⊆建築
レポーター=木下昌大


今回の展覧会『GLOBAL ENDS――towards the beginning』に、私は会場デザイン、主にギャラリーの中庭の展示に携わっている。中庭に張られたスクリーンには、「世界の果て」を喚起させる偉人の言葉と、TOTOギャラリー・間の歴代の出展者たちのリアルな言葉が浮かんでは消える。「世界の果て」から選ばれた7組の建築家たちによる展示作品の完成に胸を膨らませながら、私自身は乃木坂で具現化された言葉の展示をつくっていた。

オープン前日に出そろった7つの展示作品について、運営委員の原 研哉氏は自身のTwitter上で次のように語っている。「GLOBAL ENDSの建築家達の仕事は、野にある建築として野生の魅力を備えている。コンセプトのもろさを感じさせないし、造形や素材への不自然なこだわりもない。展示も筋肉質に凝縮されているので、読み解いていくのに手間がかかるが、その分、情報量は多い。」

原氏のつぶやきの通り、すべてを理解するのは少々難しかったが、後日開かれたシンポジウムで建築家たち自身の声を聞き、彼らの問題意識の共通項が次第につかめてきた。恐らくそれは、「GLOBAL ENDS」の定義につながっている。
シンポジウム初日のプレゼンターは、出展者のうち、ショーン・ゴッドセル氏、RCR、石上純也氏、トム・クンディグ氏の4組。司会を本展覧会のゲストキュレーターであるケン・タダシ・オオシマ氏が務め、それぞれのプレゼンテーションの後、ケン氏を交えたトークセッションが行われた。

このシンポジウムで、建築家たちが設計にのぞむバックグラウンドの違いが大きくふたつに分かれていることがわかった。ひとつは、海外組がもつ雄大な自然という原風景。対して、石上氏が拠点としている都市だ。
ショーン・ゴッドセル氏 ©Nacása & Partners Inc.
小塙芳秀氏(RCRラモン・ヴィラルタ氏の代理で登壇) ©Nacása & Partners Inc.
石上純也氏 ©Nacása & Partners Inc.
トム・クンディグ氏 ©Nacása & Partners Inc.
石上氏を除く3組の海外建築家たちは、厳しい自然環境と向き合いながら暮らしていくための“シェルターとしての建築”をつくっている。

オーストラリア出身のショーン・ゴッドセル氏は、大学を卒業後、しばらく日本に滞在した経験をもつ。「日本にはないオーストラリアの大きな特徴は、広大で平坦な大地の存在」だと話す。オーストラリアの雄大な大地では、「地平線」をベンチマークとして、人の居場所となるシェルターを設計しているという。

RCRは、スペインの火山地帯オロットの豊かな自然が生活空間であり、かつ仕事場だ。「建築を設計する上で重要なふたつの軸は、“プログラム”と“場所”」「人が生活するための“空気感”をつくり上げることに興味がある」と話す。

自然と都会の両面を持ち合わせるシアトルを拠点とするトム・クンディグ氏は、シアトルの平原には自然と共存するシェルターをつくり、ダウンタウンでは自然を内部に取り込んだビルを建てる。特殊な用途に合わせてつくり変えていく「ホッド・ロッド」(カスタムカーの一種)のように建築をとらえることで、あるときは人と自然を繋ぎ、またあるときは切り離し、土地と文化に合わせてカスタマイズをしている。

彼らにとって建築は、単に自然の脅威から身を守るための装置なのではなく、自然の風景の中で人間が暮らすための媒体なのである。ゴッドセル氏は、「建築というのは、実はすべて人間ありき。人間の精神の中にある」と語っている。

過酷な自然から人を守るシェルターとしての建築は、20世紀の近代化によって都市が膨らんでいくにつれ、必要性が薄れていった。石上氏は唯一、大自然でのプロジェクトがないわけだが、「都市において、建築の新しい在り方が問われている」と提起する。都市内部の建築のスケール感を操ることで、まったく新しい風景を生み出すことが可能だという。たとえば「KAIT工房」ではランドスケープのような建築をつくり、「大学のカフェテリア」では建築で「地平線」をつくり出そうとしている。

一見すると、海外組と石上氏は別の方向性をめざしているようだが、「人間の居場所」「自然の風景」というキーワードで紐解けば、同じ土俵にいることがわかる。大自然の風景に建築でシェルターをつくること、シェルターの集合体である都市の内部に、建築によって更なる風景をつくること。ふたつのバックグラウンドは対極にありながらも、反転して同じもの――人間の体と精神が求める風景の広がり、人間が身を寄せるシェルターとしての居場所――を求めているのである。この2つのバランスを構築することこそ、シンポジウムに参加した4組の建築家たちの共通認識なのではないだろうか。

実際に展覧会場に足を運べば、世界の果てからやってきた建築家たちの共通点を読み取ってもらえると思う。そしてグローバリズムの先にある新たな建築の可能性を感じてみてほしい。
ケン・タダシ・オオシマ氏 ©Nacása & Partners Inc.
ディスカッション ©Nacása & Partners Inc.
木下昌大 Masahiro Kinoshita
1978年
滋賀県生まれ
2001年
京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業
2003年
京都工芸繊維大学大学院修士課程修了(岸和郎研究室)
2003~05年
C+A(現CAt)
2005~07年
小泉アトリエ
2007年
木下昌大建築設計事務所設立
2010年~
首都大学東京非常勤講師

主な受賞歴
 
2010年
平成22年日本建築士会連合会賞/奨励賞
日本建築家協会優秀建築選2010/入選
IIDA Global Excellence Awards 2010/Honorable Mentions(USA)
contractworld.award 2011/ "New Generation" Shortlist(DEU)
2009年
SDレビュー2009/入選
2007年
第42回セントラル硝子国際建築設計競技/入賞
2001年
第15回建築環境デザインコンペティション/優秀賞
新建築住宅設計競技2001/入賞
TOTO出版関連書籍
著者=ケン・タダシ・オオシマ
登場建築家=トム・クンディグ、石上純也、ケリー・ヒル、ショーン・ゴッドセル、スミルハン・ラディック、パウロ・ダヴィッド、RCRアランダ・ピジェム・ヴィラルタ・アーキテクツ