出展者について
ゲストキュレーターからのメッセージ
GLOBAL ENDS――始まりに向けて
建築文化における21世紀の転換は、デザインの根本的な原理の再考をうながしています。9.11同時多発テロ、そしてリーマン・ショック以降、世界規模のグローバライゼーションと均質な世界の建築が有していた主導権は、世界の果て(GLOBAL ENDS)から出現しつつある潮流に、取って代わられつつあるのではないでしょうか。ワールド・ワイド・ウェブ(www)の影響もあり、これまでの世界の文化的中心地は、新たなローカル/グローバルの潮流、個人の感性、そして固有の気候と地形が活き活きと混ざりあって育まれた、新しい場所に移行したとみることができるでしょう。
TOTOギャラリー・間25周年記念展として企画された「GLOBAL ENDS――towards the beginning」には、ローカルな拠点に根差しつつ、より広範囲な世界で可能性を追求する個性ある5大陸、7カ国の注目すべき建築家たちが参加します。このグループは、東京から広がり、メルボルン(オーストラリア)からマデイラ島(ポルトガル)、サンティアゴ(チリ)からシアトル(アメリカ)、シンガポール、そしてオロット(スペイン)を結ぶ多様な軌道の一群を代表しています。ここで各建築家のデザインのローカルな標準を並置することによって、その建築家特有の豊かな特徴が浮かび上がります。彼らの実作における感触や素材感は、本展覧会のために特別に準備された大小の立体作品、図面、写真、ビデオによって表現されます。1800mm角の台に展示される大きな模型では自身の精神と現在形を表明し、300mm角の台に設置される小さなオブジェでは、「GLOBAL ENDS」から想起される自国の言葉を具現化します。さらに中庭では、この新たに姿を現しつつある建築文化の概念的理解をうながすために、近・現代の識者によって書かれ、また語られてきた言葉と文章、そしてTOTOギャラリー・間のこれまでの出展者達に投げかけた質問に対する回答が、投影されます。
近代化に対する盲目的な忠誠から抜け出して前進へと導くことを目指し、本展覧会では、7つの異なる視点による違いはありながらも、日々の生活における経験を通して批判的な目で現在の可能性を検証するために、原始からの過去と未来の両方に目を向けている建築家たちに参加を呼びかけました。本展覧会は、世界の果てへのヴァーチャルな旅を提供しながら、究極的には、豊かで、近い将来に実現可能なデザインの可能性を照らし出すことを目指しているのです。
ケン・タダシ・オオシマ
出展者プロフィール
©Alma Mollemans
パウロ・ダヴィッド Paulo David
1959年ポルトガル、マデイラ島フンシャル生まれ。1989年リスボン工科大学建築学部卒業。リスボンでいくつかの建築プロジェクトを、ゴンサロ・ビルネ、ジョアン・ルイス・カヒーリョ・ダ・グラサと協働。1996年フンシャルに戻り、同市の戦略的計画部コンサルタントを務め、2003年に自身の設計事務所を設立。2001~09年マデイラ大学芸術デザイン学部および土木工学部で教鞭をとる。「カーサ・ダス・ムーダス芸術センター」では、2005年ミース・ファン・デル・ローエ賞に作品選考されるなど、国内外の受賞多数。
©Earl Carter
ショーン・ゴッドセル Sean Godsell
1960年オーストラリア、メルボルン生まれ。1984年メルボルン大学より最優等賞を授与されて卒業。1985年のほとんどを日本とヨーロッパの旅行に費やす。1986~88年ロンドンのデニス・ラスドゥン卿に師事。1989年メルボルンに戻り、ハッセル・グループで働く。1994年自身の設計事務所を設立。1999年王立メルボルン工科大学(RMIT)で修士号取得。2008年アメリカ建築家協会(AIA)住宅賞優秀賞など、国内外の受賞多数。現在、初の大規模プロジェクトとして、「RMITデザインハブ(大学院デザイン研究所)」がメルボルンで建設中。
©Justin Hill
ケリー・ヒル Kerry Hill
1943年オーストラリア生まれ。1968年西オーストラリア大学卒業。1971年アジアに拠点を移す。1979年シンガポールに自身の設計事務所を設立。3人のパートナーとともに、シンガポールと西オーストラリアに事務所を構える。2008年西オーストラリア大学より名誉博士号を授与される。現在、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)客員教授。2006年、長年の功績に対し、王立オーストラリア建築家協会ゴールドメダル受賞。手掛けるプロジェクトは、東南アジアほぼ全域から、オーストラリア、インド、ブータン、スリランカ、台湾、日本、最近では中東、東欧、西欧まで及ぶ。
©Kenshu Shintsubo
石上純也 Junya Ishigami
1974年神奈川県生まれ。2000年東京藝術大学大学院修士課程修了。妹島和世建築設計事務所を経て、2004年石上純也建築設計事務所を設立。2008年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館にて個展。2005年SDレビュー・SD賞、キリンアートプロジェクト・キリン賞、2008年Iakov Chernikhov国際賞最優秀賞、神奈川文化賞未来賞、Architectural Review Awards、2009年Bauwelt Prize、日本建築学会賞、2010年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展企画展示部門金獅子賞など国内外の受賞多数。
©Kenshu Shintsubo
トム・クンディグ Tom Kundig
1954年生まれ。オルソン・クンディグ・アーキテクツ代表。アメリカ、シアトルをベースに、住宅から公共建築、商業建築までを世界中で手掛ける。彼の特徴的なディテールや、剥き出しの動く構造体は、敷地や景観との共存の仕方に対する新しい形態を切り開いている。2008年、クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館より建築デザイン賞、アメリカ芸術文化アカデミーよりアカデミー賞(建築部門)、2009年AIA建築設計事務所賞など、受賞多数。
スミルハン・ラディック Smiljan Radic
1965年、チリ、サンティアゴ生まれ。1989年チリ・カトリック大学を卒業後、ヴェネツィア建築大学在籍。2001年チリ建築家協会より35歳以下の最優秀国内建築家に選ばれる。2008年『Architectural Record』(アメリカ)の「Design Vanguard」に選ばれる。2009年AIA名誉会員。数々の会議や展覧会に招待され、作品は『2G』(スペイン)での作品集など、多くの雑誌で採り上げられている。最近は、彫刻家マルセラ・コレアと協働している。
©RCR
RCRアランダ・ピジェム・ヴィラルタ・アーキテクツ
RCR Aranda Pigem Vilalta Arquitectes
ラファエル・アランダ(1961年スペイン、オロット生まれ)、カルメ・ピジェム(1962年同オロット生まれ)、ラモン・ヴィラルタ(1960年同ヴィック生まれ)は、ともに1987年ヴァリェス建築学校(ETSAV)で建築学士を取得。1988年オロットにて共同で設計事務所を設立。2005年カタルーニャ建築賞。2008年フランス文化省より芸術文化勲章(シュバリエ)を受章。2010年6月AIA名誉会員。様ざまな国内外コンペで最優秀賞を獲得し、最近ではフランス、ロデーズの「スラージュ美術館およびフォワライユ公園の整備」などが進行中。
ゲストキュレーター
ケン・タダシ・オオシマ Ken Tadashi Oshima
1965年アメリカ、コロラド州に生まれる。ハーバード大学にて、東アジアの研究および視覚環境の研究分野で文学士号取得(優秀成績者)。カリフォルニア大学バークレー校にて建築修士号、コロンビア大学で建築史および建築論の博士号取得。現在、ワシントン大学准教授。著書・共書に『Arata Isozaki』(Phaidon、2009)、『International Architecture in Interwar Japan: Constructing Kokusai Kenchiku』(University of Washington Press、2009)、『Visions of the Real 20世紀のモダン・ハウス : 理想の実現 I・II』(a+u特別号、2000)など。MoMAの「Home Delivery」展のカタログ執筆者、「SANAA: Beyond Borders」展キュレーター、「アントニン&ノエミ・レーモンド展」の共同キュレーターなど。