特集/ケーススタディ3

手を動かすのが好きで意気投合

―― 飯田さんとはどういうご縁で知り合ったんですか。
平生 僕が商品企画部長だった時代にチーム内でかかわっていた、あるマンションの監修を飯田さんがなさっていたんです。
飯田善彦 梁がなく、壁柱で支えるすっきりした構造の建物でした。ただ、三菱地所の担当者たちは、これなら売れるだろうという高級マンションの設えをどんどん足していくため、せっかくの構造が生かし切れませんでした。僕は監修役だから設計はできず、これでは新しいプランニングには至らないと痛感しましたね。ところが今回は、今までとは違うマンションをつくりたい、その設計・監理まで任せてくれるという。ずっとやりたいと思っていたことができると、非常に興味をもちました。
―― 平生さんは飯田さんに会って、どんな印象でしたか。
平生 心が通じたのは、お互いに手を動かすのが好きだという話をしてからですね。僕は自称「日曜大工、土曜船大工」で(笑)、古い船を買ってリストアしたり、家でウッドデッキや棚をつくったりしているんですが、大工仕事というのは苛酷な作業で、天井板1枚張るのに釘を2~3本打ったらもう腕がだるくなる。そんな苦労も知らず、線1本引くだけで直せというような建築家は大っ嫌いなんですよ。現場の労力を理解し、材料を無駄にせず、新しい合理的な思想を考え抜き、表面は水が流れるがごとくみごとにつくり切ってこそプロだろう、と。飯田さんはまさにそういう人だと感じました。
飯田 僕がちょうど、琵琶湖のほとりに自分でつくっていた小屋の話をしたのが効いたかもしれませんね(笑)。
―― 『新建築』2010年4月号で発表した「半居」ですね。
平生 飯田さんが、「世の中に流通している材木には3mと4mがあるんですよ。それを組み合わせて使うと余裕のある階高が実現できるから、そういうなるべく無駄が出ない構造で、外皮は半透明な素材で取り囲んだ、井桁みたいな小屋をつくりたい」とおっしゃった。そのとき、プリミティブなものづくりというのは、まず材料があって、それをどう生かして空間をつくるかということなんだなとモヤッと感じた。この建築家はいいなと(笑)。
飯田 最初にそんな話をして、それから基本設計に至るまで、プロジェクトのメンバーと週1回集まって、図面や模型をつくりながら、いろんな話を数え切れないほどしましたね。駐車場はなくして自転車置場をつくろうとか、ロビーにかっこよく自転車を飾ったらどうかとか。ひとつの共有するイメージを確定していこうという時間で、設計というより「運動」みたいな感じでしょうか(笑)。
―― プレゼンテーションは気に入ってもらえましたか?
飯田 3つのプランをプレゼンしたんです。うち2案は片廊下など、三菱地所が本来つくるものに近づけたプランでしたが、残りの1案としてすべり込ませたのが今の原形です。ここは斜線制限もきびしく周辺の家々も迫っているから、真ん中に建物をつくってまわりをあけ、バラバラに各戸があるというよりはひとつの家みたいに集合させたプランを考えました。平生さんは遅れて来られたんですが、どうですか?と聞いたら即、「これだろう」と今の案を指しました。
平生 直感的に、圧倒的に、これだと思いましたね。だいたい、みんな、これじゃないかという顔をしているんですよ(笑)。サラリーマンは失敗を恐れるから、自分の考えはなかなか言わないんです。
飯田 でも、今回のメンバーはみな、このプロジェクトをおもしろがれる人たちでしたよね。
平生 そう、誰でもおもしろがれるはずなんですよ。僕はいつも、「住宅関係の仕事は公私混同しないと成り立たない」と言っています。住宅に関しては誰でも住むプロなんだから、僕はこれが好きとか、女房も学生時代の仲間もみんなこう言ってるよ、というようなことを、なぜ仕事の場で言わないのか、とね。
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