特集/座談会

土地所有制や相続税がデザイナーズマンションを誘発する

北山 それまでのディベロッパーというのはまずマンションが建つ土地を探して、その用地のなかにマンションというビルディングタイプをただ建てるだけですよね。ところが、東京の住宅密集地にある旗竿地などの変形敷地だと、そういうビルは建たないんです。そこに建築家が入って工夫をすれば、ユニークな空間がつくれるということに気づいたのが髙木さんたちなんですね。
 もともと80年代に、ワークショップの3人で町場の小さな不動産屋と始めたのは、東京の土地が高騰するなかで、相続税対策としての賃貸マンション事業でした。都内に先祖代々の土地をもつ地主さんにとって一番こわいのは土地を失うことで、そんなに利益は出なくてもいいんです。そこで、まず負債を負ってもらって賃貸マンションを建てれば資産が圧縮されて節税になり、土地を手放さずにすむという事業スキームです。そんなビジネスモデルをつくって大まじめで、僕たちはみんなで地主たちにビラを配って営業したりコンピュータを導入して返済計画のシミュレーションソフトを開発したりしていました(笑)。当初はうまくいきませんでしたが、80年代末には髙木さんたちと小さな土地をもつ地主のプロジェクトをいくつか実現させることができました。
―― なるほど。そういう地主さんは今も大勢いるんでしょうね。
大森 全国には3000万人の地主がいますから。
北山 そう、東京だけで180万人もいる。こういうものが生まれてきた背景には日本の土地所有制がありますよね。ヨーロッパでは都市で土地を所有している人なんてほとんどいませんから。
白井 土地所有制や相続税がデザイナーズマンションを誘発する一方で、名作モダニズム住宅のように、各100~150坪の土地に一軒家が建ち、それなりの住宅街を形成しているところがどんどんなくなっていく。取材しているとそういう新陳代謝を感じますね。
北山 それは戸建てという建築の形式と中身が合わなくなってきたせいでしょうね、一家族一住宅という。100坪の敷地に立つ名作住宅には昔は5~6人住んでいましたが、今はおばあちゃんがひとりで暮らしているといった具合に。
大森 今の若い人が考える住宅のイメージは、もはや昔の「住宅すごろく」のように、ゴールが庭付き一戸建てではないですしね。
北山 郊外に一戸建てをもって満員電車で通勤するより、都市のなかでもっとぎゅっとコンパクトに住んで、自転車で通勤して、近くのレストランやバーに行ったり、演劇を見に行ったりする生活を楽しむほうがいいという人が増えたんだと思います。
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