TOTO

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー展 ヴァリエテ/アーキテクチャー/ディザイア

アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー展
ギャラリートーク 「LIFE / CURATION / MISUNDERSTANDING」
アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー(以下、ADVVT)作品やベルギーと縁のある建築家 黒川彰さんをナビゲーターに、多彩なゲストをおむかえして、ADVVT作品を読み解いていきます。
ナビゲーター黒川彰氏からのメッセージ  LIFE / CURATION / MISUNDERSTANDING
2012年の夏、ベルギーのブリュッセルの設計事務所で働いていたときに、ヤン・デ・ヴィルダーの案内のもとADVVTが設計した2つの建物(*1) を見学する機会をいただきました。衝撃を受けました。色使いや部材の取り合いについて説明するヤンさんの真剣な表情と、理解が進むほどに、どんどんわからないことが増えていく感覚のギャップ。もっと知りたくなるワクワク感。そして、理解することを諦めて、このワクワクそのものに満足してしまいたくなる怠惰な幸福感。建築の重要な喜びに出会えた経験でした。

みなさんにとって、今回のADVVT展はどのような経験になるでしょうか?
自分の探究とのリンクはありましたか?新しい問い、喜び、wendung(*2)は見つかりましたか?

この連続トークイベントは、彼らの設計から具体的な学びを得る機会にしたいと思います。そのために、日本の作家をお招きし、その視点からADVVTについて議論を深めてゆきたいと考えています。 何を学び取れるかはひとそれぞれまったく異なると思います。誤読を楽しみ、わからないことを尊ぶ、創造的な時間を過ごしましょう。


テーマ
[LIFE] どのような社会背景の中で成立し、新しい生活像を以てどのように社会に働きかけているのか――もしくは、いないのか。

[CURATION] そこにある物理的な状況をどう観察・評価・選択し、新旧の要素を再配置するのか。

[MISUNDERSTANDING] どのように決め、裏切り、統合するのか。理解と失認の果てになにがあるのか。
ナビゲーター
黒川 彰(建築家 / Sho Kurokawa architects)
*1  バレエ団 C de la Bと音楽劇場LOD (ゲント, 2008) とトネルハウス・スヘルメンハウス64 (アントワープ, 2009)
*2 wendung…「転換」「ねじれ」などを意味するドイツ語。
開催日時、出演者
第1回:10月18日(金)18:30 - 20:30 開催終了 トークイベント「LIFE - 生き方、立ち向い方」
会場:TOTO乃木坂ビルB1F セラトレーディングショールーム
出演:塚本由晴有岡果奈 × ヤン・デ・ヴィルダー
進行:黒川 彰
言語:英語
申込期間: 9月24日(火)~ ※定員になり次第〆切
第2回:10月31日(木)18:30 - 20:30 開催終了 トークイベント「CURATION - 見方、選び方、置き方」
会場:TOTO乃木坂ビルB1F セラトレーディングショールーム
出演:青木弘司篠原勲
進行:黒川 彰
言語:日本語
申込期間: 10月21日(月)~ ※定員になり次第〆切
第3回:11月15日(金)18:30 - 20:30 開催終了 トークイベント「MISUNDERSTANDING - 作り方、変え方、壊し方」
会場:TOTO乃木坂ビルB1F セラトレーディングショールーム
出演:村山徹松島潤平
進行:黒川 彰
言語:日本語
申込期間: 10月21日(月)~ ※定員になり次第〆切
ナビゲータープロフィール
黒川 彰(くろかわ しょう)
建築家
1987年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2009年に卒業し、渡欧。ベルギーのOFFICE Kersten Geers David Severenでの勤務を経て、2014年にスイスイタリア語圏大学メンドリジオ建築アカデミーを修了。同年にSho Kurokawa architectsを設立し、建築・家具・プロダクトのデザインをおこなう。2018年に日本とスイスの文化交流プラットフォームとして一般社団法人 日瑞建築文化協会 (JSAA) を立ち上げ展覧会や講演会の企画を行なう。2019年より慶應義塾大学非常勤講師。
Sho Kurokawa architectsとしての主な作品に障がい者就労支援事業所「Employment support center」(大船渡, 2017)やレストラン「OND」(中目黒, 2019)など。JSAAとしての主な企画に「クリスト&ガンテンバイン展 - The Last Act of Design」(代官山ヒルサイドフォーラム,2019)など。
shokurokawa.net | js-aa.org

©Xia_Shuliang
出演者プロフィール
第1回ゲスト
塚本由晴(つかもと よしはる)
建築家。1965年生まれ。1987年東京工業大学工学部建築学科卒業。1987~88年パリ・ベルビル建築大学、特別聴講生。1992年貝島桃代とアトリエ・ワン設立。1994年東京工業大学大学院博士課程修了。Harvard GSD、UCLA、The Royal Danish Academy of Fine Arts、Barcelona Institute of Architecture,Cornel University、Rice University、TU Delftなどで客員教授を歴任。現在、東京工業大学大学院教授。
有岡果奈(ありおか かな)
建築家。1996年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業、2003年ヴェネチア建築大学建築学部卒業。Bernardo Secchiに師事し、アントワープのPark Spoor Noordプロジェクト・リーダーを務める。帰国後はアトリエ・ワン勤務。2007年に有岡建築都市設計設立後は、アーバニストとして主に国内の公共空間設計に関わる。現在、ブリュッセル在住。51N4Eを経て、アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユーのシニア・アーキテクト。EU政府公認建築士、現在千葉大学非常勤講師。
第2回ゲスト
青木弘司(あおき こうじ)
建築家。1976年北海道生まれ。2001年北海学園大学工学部建築学科卒業。2003年室蘭工業大学大学院修了。2003〜11年藤本壮介建築設計事務所勤務。2011年青木弘司建築設計事務所設立。2014〜15年東京理科大学非常勤講師。2015〜17年東京大学非常勤講師。2018年青木弘司建築設計事務所を改組、合同会社AAOAA一級建築士事務所設立。現在、武蔵野美術大学、東京造形大学、前橋工科大学非常勤講師。
篠原勲(しのはら いさお)
建築家。1977年愛知県生まれ。2003年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2003〜13年SANAA 勤務。2008年今村水紀とmiCo.設立。現在、慶応義塾大学、女子美術大学、東京理科大学、昭和女子大学非常勤講師。
第3回ゲスト
村山徹(むらやま とおる)
建築家。1978年生まれ。2004年神戸芸術工科大学大学院修士課程修了。2004~12年青木淳建築計画事務所。2010年加藤亜矢子とムトカ建築事務所設立。主な作品に「ペインターハウス」「小山登美夫ギャラリー」「天井の楕円」など。現在、関東学院大学研究助手。
松島潤平(まつしま じゅんぺい)
建築家。1979年長野県生まれ。2002年東京工業大学建築学科卒業。2005年東京工業大学大学院建築学専攻修士課程修了。2005年~隈研吾建築都市設計事務所勤務。2011年~松島潤平建築設計事務所主宰。2016年~芝浦工業大学非常勤講師。2019年~東京大学非常勤講師。主な受賞に「2015年度グッドデザイン賞」「2016年日本建築学会作品選集新人賞」等。
ギャラリートーク開催報告
To make a slight difference in how life arises.
生活の立ち現れ方に変化をもたらすために。

 建築家アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー(以下、ADVVT) から具体的な学びを得るために企画された3回のギャラリートーク「LIFE / CURATION / MISUNDERSTANDING」は、各回とも満員のなか、エキサイティングな議論が展開されました。ADVVTと5人の日本人建築家の実践や思想を照らし合わせ、登壇者の視点から読み解くかたちで進められた議論のなかに、ADVVTの創作のリアリティを体験する時間が確かにあったのではないかと思います。
 「LIFE」に登壇したヤン・デ・ヴィルダーさんと塚本由晴さんと有岡果奈さん/「CURATION」の青木弘司さんと篠原勲さん/「MISUNDERSTANDING」の松島潤平さんと村山徹さん、それぞれの登壇者同士は日頃からよく顔を合わせて議論を交わす関係であったため、ADVVTの作品やお互いを尊重しつつも、忌憚のない批評的発言が飛び交いました。「信頼を伴った挑発」のあるトークは、僕がADVVTの建物で味わった空気感に近いものでした。

 第1回目、ヤンさんと塚本さんのトーク「LIFE」では、有岡さんのモデレーションのもと、両者の建築行為の枠組みが話の中心となりました。建築の根拠(コンテクストとリソース)と、その対象の広がりが示され、拡張された「建築」という概念をもって我々が築き得る、タンジブル(実体があり手に触れることができる)で知的な接続関係について、両者の実践を知ることができました。ヤンさんのインスタグラム上での日常の観察行為、塚本さんが千葉県の里山で続けている米づくりなど、建築の根拠の中に自らを組み込んで「当事者」になることで、建築が関わるネットワークを再構築する意識にお互いが共感し合う様子が印象的でした。
 第2回目「CURATION」と第3回目「MISUNDERSTANDING」では、それぞれの登壇者が見い出すADVVT作品への共感・疑問・批評の多様さが、第1回でヤンさん自身により語られたADVVTの建築の根拠の広がりを裏付けていたと思います。篠原さんの「モノを視すぎないで、すこし距離をとって、おおらかに状況をとらえる」という態度や、青木さんの「(住宅において)新しさと古さのどちらも掘り下げることで、バラバラな時間が空間に宿りつづけ、いつまでも新鮮に住むことができる」という考えは、ADVVTが「常に期待できるものではない」ものと捉える現実を尊び、その「コンテクストを主観的に観察し、生活に癒しを与えられるように向上させる」(*1)と語るアプローチとの親和性を見つけることができました。スクラップ&ビルドと言われる近代以降の日本の建築産業のあり方が、資源の再活用へとシフトしてきたこのタイミングで、状況を受け入れてそこに新しい意味を与えるような「キュレーション」としての設計のあり方を議論できたことは意義深かったと思います。
 また、松島さんと村山さんとの議論のなかで指摘された「あざとさ」という言葉が、ADVVTを掘り下げるなかで避けて通れないキーワードとなりました。さまざまな状況に対して、ときに論理的・機械的に、ときにユーモラスに反応しながら組み立てられていくADVVTの重層的な空間の表現が、わざとらしさにつながりかねないという議論です。「あざとさ」という言葉が建築で使われる場合は、不自然さや不自由さに結びつくことが多いでしょう。しかし、実際にはADVVTの建築は全体としての自然さがあり、体験者の身体的活動と知的解釈の両方に自由さをもたらしてくれるものだと僕は思います。振り返ってみると、3回のギャラリートークは、この自然と自由のつくり方をひも解くプロセスだったのかもしれません。

 展覧会に先駆けて開催され、展示作品群が生み出された東京工業大学大学院でのADVVTによる設計ワークショップにおいて、彼らは学生に「問題を解決せずに、問題を維持する」(*1)ことを求めていたそうです。また、その最終講評会において、ヤンさんは「設計のためのルールを設定し、部分的にそれを破ることにより、空間に根源的な変化を呼び込める」と説いていました。学生への指導としては、特異なアプローチといえるでしょう。
 ここで、日本人建築家の言説を借りながら、ギャラリートークの議論とADVVTについて、もう一歩だけ奥に読み進めます。青木淳さんの2000年前後のいくつかの文章(*2)の中に、プロジェクトにおいて、設計者が構成を定めるためのルールは根本的に「無根拠」であることを認めた上で、その自律的なルールが利用しつくされた建築のあり方を探っている様子が書かれています。ルールを設計者の所有物としないことで、それ自体がもつ動力を活かすことができる、という点において、青木淳さんのこのアプローチはADVVTの設計との共通点があると思います。しかし、ADVVTは諸条件をキュレーションすることにより、「多根拠」なルールをつくり出し、運用し、さらにそのルールを自ら「破る」ことを重んじます。
 そうしてADVVTによって空間にもたらされたwendung(*3)は、青木淳さんが指摘するような、テーマパークにみられる作為的な「あざとさ」とは違うといえないでしょうか。ADVVTはむしろ体験者を信じて、挑発するような意識をもって設計をしているように思います。我々の生活がさまざまな根拠に依っていることを明らかにし、現実の認識を広げてくれる建築。「生活の立ち現れ方に変化をもたらすため」につくる(*1)というADVVTの建築的探究が、これからも日本に届き、我々を刺激し続けることを願います。

ナビゲーター 黒川 彰(建築家 / Sho Kurokawa architects)

*1『アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー建築作品集』(TOTO出版、2019)
*2『原っぱと遊園地』(王国社、2004)に収録
 「決定ルール、あるいはそのオーバードライブ」(初出 『新建築』 1997年7月号)
 「構成を表現を捨てること、および互換性について」(初出 『新建築 住宅特集』 1999年10月号)など
*3  wendung …「転換」「ねじれ」などを意味するドイツ語。
第1回:「LIFE - 生き方、立ち向い方」
第2回:「CURATION - 見方、選び方、置き方」
第3回:「MISUNDERSTANDING - 作り方、変え方、壊し方」
TOTO出版関連書籍
著者=アーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー