本講演会ではアーキテクテン・デ・ヴィルダー・ヴィンク・タユー(以下ADVVT)からヤン・デ・ヴィルダー氏とヨー・タユー氏の2名が登壇。事務所の設立以来、約10年間で手がけてきた数多くの作品から7つをピックアップし、それぞれの背景について明快な口調で丁寧に説明をしていきました。
代表作のひとつ「カリタス」(ベルギー、メッレ/2016年)は精神科病棟の改修コンペで、取り壊しが進んでいた19世紀の建物を今の時代にあった使い方で再生することができないかが建築家に問われました。ADVVTはその問いに対し、敷地に点在する複数の建物のロッジア* 部分を白く塗り、異なる時期に増改築された建物に統一感を取り戻すことに加え、既存建物の補修方法のルールを決めるとともに、既製品の温室を挿入することで多用な用途に応える空間を提案し、見事コンペに勝利しました。
ADVVTは、「カリタス」は老朽化や用途の変更など「長い時間をかけて向き合っていくオープンな構造体」だと彼らは言います。さらにADVVTは、建築にとって「人」がもっとも重要であると考え、病院のディレクター、医師、患者へのインタビューを実施し、ときに批判的な意見も取り込んできました。だからこそ継続的に手を加えながら、一人ひとりが自分で使い方を発見していく豊かな場所が生まれたことが講演から伝わってきました。
このように、出された問題に真正面からぶつかるのではなく、少しひねることによって問いそのものを変えてしまう自らの姿勢を、ドイツ語の「wendung」という言葉で彼らは説明します。他の6つの作品にも、彼らの「wendung」精神に満ちた、アイデアとチャレンジ精神があふれていました。
「wendung」で与条件をポジティブに転換し、ときに矛盾を抱えながらも人びとの小さな物語を丁寧に拾い上げる彼らの作品はヴァラエティに富み、そこから「ヴァリエテ/アーキテクチャー/ディザイア」と題された展覧会と書籍の話へと続きます。最後は「architecture is not a matter of architecture(建築は建築の問題ではない)」という逆説的な一文を紹介し、聴講者に解釈を委ねるかたちで講演会は幕を下ろしましたが、一連の話を通じて、多くの聴講者がその意味するところを理解したのではないでしょうか。(主催者記)
* ロッジア:屋根がかかった半屋外空間