TOTO

三分一博志展 「風、水、太陽」

展覧会レポート
地球と共存-自然をより美しく魅せる建築
レポーター=城所竜太


本展覧会は、作品に直接携わらない限り、滅多に見ることが出来ない三分一博志さんの設計プロセスを惜しげもなく共有している。そしてこの個展では、三分一さん自身の作品以上に、建築の在り方、役割に対する強いメッセージが伝わってくる。

三分一さんは自らの作品を「地球のディテール」と捉えており、敷地、地域特有の風、水、太陽をはじめとした様々な「動く素材」を建築に取り入れることを重要視している。彼の作品は観るより「体感」すべき建築である。

会場に入り、まず目に止まるのは三分一さんが主に設計活動を行っている瀬戸内の大きな地図と、敷地周辺を空から見下ろした写真の数々。美しい瀬戸内の地形が織りなす様々な表情、土地の特徴を入念に読み解くことから三分一さんの創造プロセスが始まるのであろう。
そして会場に設置された無数のスクリーンに映し出されている映像から、その体感型建築の仕組みが読み解ける。
© Nacása & Partners Inc.
太陽のエネルギーや地中熱を活用し、100年以上前に作られた煙突により空気を循環させる。機械設備に一切頼ることなく温熱環境を整える「犬島精錬所美術館」(岡山県/2008年)の仕組みを、館内を巡るシャボン玉と外部・内部の温度表記で表している映像は興味深い。まるで建築そのものが自然現象を生み出すひとつの「装置」のようだ。

中庭に出ると、「動く素材」である風、水、太陽の力が可視化され、それぞれの素材を意識させる工夫が成されている。「晴れ」「午後2時」「気温は約22度」「そよ風」「直射日光有」と、頭が自然にメモをとる。そして当然のことながら季節、天候、時間等の条件により、風、水、光の表情が変わることを改めて理解出来る。それらを踏まえて中庭を敷地の地形と捉えると、「動く素材」をどう建築に活用できるかイメージを膨らませたくなる。しかし同時に、「動く素材」の表情は無限にあり、短時間でアイデアを構築することが出来ない難しさも実感できる。
© Nacása & Partners Inc.
中庭から4階の展示室に進むと、そこでは三分一流の「リサーチ~シミュレーション~エクスペリメント~モックップ」をたどる入念な設計プロセスが明かされている。三分一さんは地域のコンテキストを読み解く上で、四季を通して「動く素材」を観察する。それはリサーチだけで一年以上を費やすことを意味し、そこまでの手間をかけられるのは自然に対する敬意と、建築に対する責任感ゆえに他ならない。

会場の中央に飾れていているのは気流を確認するために使用された、アドホックな実験装置である。この装置で手前に置かれた扇風機で線香の煙を風洞内に引き込むことにより、スタディ模型周辺の気流を可視化する。ここでも自然の動きを読み解く工夫に目を見張る。
その横には「直島ホール」(香川県/2015年 )の屋根部分のスタディ模型が並べてあるが、これらは「建築美」の追求ではなく、屋根の気流発生装置としての機能を最適化することを最重要視し作られている。とは言いつつ、空気の流れを導く流体的なフォルムと漆喰で彩られた天井はもちろん目を喜ばせる。樹氷をまとった幻想的な「六甲枝垂れ」(兵庫県/2010年)を始めとし、建築物の美しさは元より、自然をより美しく魅せる三分一さんの作品が国内外問わず高い評価を得ていることは当然のことである。
© Nacása & Partners Inc.
技術の発展により、より大きく、より強い建築を生み出すことを成し遂げた人類だが、一方で環境に負荷を与えてきた。近年では環境汚染問題に対処するため、省エネ建築やサスティナブル建築など環境配慮型の取組みが広がっている。しかし、三分一さんの建築は単に環境に配慮するだけの建築ではない。さらに原点に返った、プリミティブとも言える「地球と共存する建築」なのだ。
三分一さんの建築を通して地球との共存のあり方を一途に探求する取り組みは、十数年前に初めて会った頃から一貫している。これまで数多くの作品にエンジニアとして携わってきた私も、その都度、まずは彼の独特なアイデアに驚かされ、アイデアを共有すればするほど不思議と三分一さんの世界観に吸い込まれていく。
© Nacása & Partners Inc.
これを機にぜひ瀬戸内の美しさ、三分一さんの作品を体感する旅に出ていただきたい。
城所竜太 Ryota Kidokoro
1976年、ニューヨーク市生まれ。1998 年、Cornell University(米国) Civil Engineering卒業。1998~2000年、Thornton Tomasetti Engineers(米国)勤務。2000年よりArup東京事務所勤務。これまで手掛けられた作品に「Nicolas G Hayek Center」、「犬島精錬所美術館」、「ナミックス テクノコア」、「六甲枝垂れ」、「大分県立美術館」、「直島ホール」などがある。主な受賞歴に第19回JSCA作品賞(2008年)
TOTO出版関連書籍
著者=三分一博志