出展者について
伊東豊雄氏による展覧会コンセプト文
「台中メトロポリタンオペラハウス」が9年の歳月を経て完成像を見せ始めた。2005年末にコンペティションで提案した「白い洞窟」が、遂に現実の建築として実現しつつある。
基本形は四角い箱だが、内部はいたるところ三次元の曲面から成り、床、壁、天井の区別も定かでない。建築とはいいながらも、これは人体になぞらえることができる。人の身体には多くのチューブ状の器官が存在するように、この建築の内部にも縦横無尽にチューブ状の空間が貫通しているからである。身体が口、鼻、耳などの器官を介して自然と結ばれているように、このオペラハウスも内外が連続する建築を目指したのである。
しかし、この9年間は苦難の連続であった。曲面の連続体のなかに3つのオペラ劇場やリハーサル室、レストランなどをどのように入れ込むかに始まって、曲面壁をどのように構造体として理性的に成立させうるか、そしてそれをどのような工法で予算内に実現しうるか、などなど……。試行錯誤をくり返しながら、やっとあと一歩の地点まで辿り着いた。
私たちのチームが9年間注いだエネルギーは、いまひとつの「もの」の力に転化されつつある。個々人の小さな努力が、ひとつの大きな喜びに変わりつつあるのだ。ようやく私たちはこの間の軌跡を振り返ることができるにいたった。
伊東豊雄
出展者プロフィール
伊東豊雄(いとうとよお/Toyo Ito)
1941年生まれ。65年東京大学工学部建築学科卒業。65~69年菊竹清訓建築設計事務所勤務。71年アーバンロボット設立。79年伊東豊雄建築設計事務所に改称。主な作品に「シルバーハット」、「八代市立博物館」、「大館樹海ドーム」、「せんだいメディアテーク」、「多摩美術大学図書館(八王子キャパス)」、「2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム」、「台湾大学社会科学部棟」など。現在、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」、「台中国立歌劇院」などが進行中。日本建築学会賞作品賞、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、朝日賞、高松宮殿下記念世界文化賞、プリツカー建築賞など受賞。東日本大震災後、被災各地の復興活動に精力的に取り組んでおり、仮設住宅における住民の憩いの場として提案した「みんなの家」は、2014年9月までに11軒完成、現在も4件が進行中。その役割も、コミュニティの回復、子どもたちの遊び場、農業や漁業の再興を目指す人びとの拠点などに発展している。2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。これからのまちや建築のあり方を考える場としてさまざまな活動を行っている。