TOTO

ARCHITECTURE FOR DOGS 犬のための建築展

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シンポジウムレポート
発見のためのプラットフォーム
レポーター=猪熊 純


TOTOギャラリー・間での展覧会「犬のための建築展」にあわせた今回のシンポジウムは、ディレクターである原研哉と、出展者のひとりである隈研吾、そしてこの展覧会の共同企画者であるジュリア・ファング、3名の登壇者によって行われた。

隈・ジュリア両名がともに原とは長いつきあいであるという3者の対談は、この展覧会が始まったきっかけから、先かげて行われたアメリカでの展覧会の話、隈が今回手がけたMOUNT PUGのデザイン秘話、原がディレクションした展覧会の話、そして隈が子供のころ獣医になりたかったという話まで、様々に展開しながらも、即興の音楽のセッションのように滑らかに続いた。
そんな中で、話題や言葉を変えてたびたび似た価値観が登場したのが印象深い。隈は、今回の「MOUNT PUG」の作成を、なんで自分はこんなに真剣にやっているのだろうと思ったと冗談を交えながら、「クリエイションにおいて面白いのは、仕事が大きいかどうかではなく、どんなチャレンジからもたくさんの副産物が生まれることだ」と言う。
隈研吾氏
原は、18年前に手がけた「建築家たちのマカロニ展」について、「マカロニは、一度小麦を粉にしてから構築しなおすという独特の食材の、絡み方・見た目・歯ごたえ・茹でやすさなど多数の条件に対して、建築家が本気で挑み思考するプロセスそのものに意味があった」と語る。今年の春に行われた「HOUSE VISION」も、縮小社会の都市・建築・暮らしを、家を通して考えるという壮大なテーマに対し、「こうだったりして、と提案しつづけることでしか未来は開けない」と言う。
原研哉氏
ジュリアに至っては、彼女が代表取締役についているImprint Venture Labが、そもそも銀行が行わないような試みに投資を行うことをコンセプトとしているのである。彼らに共通するのは、予定調和を良しとせず、偶然を楽しみ、未知なるものを発見しようとする好奇心であり、その繰り返しが未来を作るという信念だ。
ジュリア・ファング氏
今回の展覧会も、まさにこうした原の考え方が強く出ていることが伺える。ギャラリーで行われているのは紛れもなく犬のために13人の建築家が考えた建築の展示である。しかし同時に、ウェブ上にはフリーでダウンロード可能な製作図がアップされ、実際に製作を行った人々からの写真が投稿され、書店には美しい本が並ぶ。展示場所が代わっても、そのまま使えてしまうプラットフォームが立ち上がっているのである。この拡張性は、会場の展示を大きく超えている。趣旨説明で語られている通り、これは「犬と人間の幸福のための真摯な建築プロジェクト」ではあるが、ただ13個の建築たちの美しさや楽しさを讃えるだけの展示ではない。むしろ、犬を媒介としたグローバルなコミュニケーションの実験場のようでもある。犬という動物は、普段アートや建築などとは縁遠い人でも、身近に興味を持つことの出来る存在である。そういった意味では、「犬」は、展覧会においてのテーマであるとともに、プロセスが生み出す新しい「何か」のために設定したキャストのようですらある。

終盤、これまでの話とは少し異なる印象的な場面が垣間みられた。ジュリアの、なぜ原ディレクションの展覧会には、皆が必ず応じるのかという問いに対し、隈が「こんな素敵な本に纏めてもらえるんだから」と答えたことだ。メディア・コミュニケーションにおいて実験的な側面を大きく持つ今回の展覧会において、けれども最後は、原がそのブックデザインによって名のある建築家達の信頼を勝ち得ているのである。これは、自身がデザイナーである原だけに許された、プロのキュレーターにもできない立場である。こうした立場から、異分野のトップランナーたちを刺激し続ける、どこか原自身が様々な新しい発見のためのプラットフォームのようでもある。そんなことが感じられたシンポジウムであった。
シンポジウム会場
猪熊 純 Jun Inokuma
建築家・首都大学東京助教
2004年
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修士課程修了
2004-06年
千葉学建築計画事務所勤務
2007年
成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立
2008年より現職
INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS 2009など受賞多数
TOTO出版関連書籍
編=ARCHITECTURE FOR DOGS, INC
企画・構成=原研哉+日本デザインセンター 原デザイン研究所