出展者について
出展者メッセージ
東日本大震災からまもなく2年、想像を絶する津波の記憶は次第に遠去かり、私たちの生活は日常に戻りつつある。だが被災地の人びとの心の傷は癒されてはいないし、まちが復興する兆しも一向に見えない。こうした現実を目の当たりにして私たちは、建築家として、いやそれ以上にひとりの人間として、被災地の人びとに一体何を償うことができるのだろうか。
「ここに、建築は、可能か」というテーマは、このような状況において、このような場所でのみ、建築本来の姿を問うことが可能ではないのか、という想いの裏返しである。「みんなの家」と呼ぶ小さな共同の家を媒介にして、私たちはいまなら被災地の人びとと心を通わせることができるかもしれない。そしてそこから人々が集まるための場を形成するという、建築の最もプリミティブな発生過程をたどることができるかもしれない、と考えた。
2012年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展において、私たちは陸前高田市に建てられた「みんなの家」を巡っての、およそ1年にわたる被災地の人びとと私たちの議論のドキュメントを展示した。経済の道具と化してしまった建築を、もう一度ゼロから建築本来の意味を世界の建築関係者とともに問い直してみたかった。それはカタストロフィに直面したわれわれに課せられた、責務であると考えるからである。
伊東豊雄
プロフィール
陸前高田の「みんなの家」上棟式(2012.8.7)左から乾久美子氏、伊東豊雄氏、平田晃久氏、藤本壮介氏、畠山直哉氏
©Naoya Hatakeyama
伊東豊雄 Toyo Ito
建築家。1941年京城市(現ソウル市)生まれ。1965年東京大学工学部建築学科卒業。1971年アーバンロボット設立。1979年伊東豊雄建築設計事務所に改称。
主な作品に「せんだいメディアテーク」(2001)、「TOD’S表参道ビル」(2004)、「多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)」(2007)、「2009高雄ワールドゲームズメインスタジアム(台湾)」(2009)、「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」(2011)等。現在、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」、「台中メトロポリタンオペラハウス(台湾)」他が進行中。日本建築学会作品賞(1986、2003)、ヴェネチア・ビエンナーレ「金獅子賞」(2002)、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル(2006)、朝日賞(2010)、高松宮殿下記念世界文化賞(2010)等受賞多数。著書に『風の変様体』『透層する建築』(いずれも青土社)、『建築の大転換』(筑摩書房、中沢新一氏との共著)、『あの日からの建築』(集英社新書)等。
乾 久美子 Kumiko Inui
建築家。1969年大阪府生まれ。1992年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1996年イエール大学大学院建築学部修了。青木淳建築計画事務所勤務の後、2000年乾久美子建築設計事務所設立。現在、東京藝術大学准教授。
主な作品に「片岡台幼稚園の改装」(2001)、「ヨーガンレール丸の内」(2003)、「DIOR GINZA」(2004)、「アパートメントI」(2007、新建築賞受賞)、「スモールハウスH」(2009、東京建築士会住宅賞)、「フラワーショップH」(2009、日本建築士会連合会賞、2010グッドデザイン金賞)、「Kyoai COMMONS」(2012)等。著書に『現代建築家コンセプト・シリーズ3 乾久美子――そっと建築をおいてみると』(INAX出版)、『浅草のうち』(平凡社)等。
藤本壮介 Sou Fujimoto
建築家。1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年に藤本壮介建築設計事務所設立。
主な作品に「House N」(2008)、「武蔵野美術大学 美術館・図書館」(2010)等。JIA日本建築大賞(2008)、World Architectural Festival─個人住宅部門最優秀賞(2008)、ベトン・ハラ ウォーターフロントセンター国際設計競技(セルビア)1等(2011)。台湾タワー国際設計競技(台中)1等(2011)、王立英国建築家協会(RIBA)インターナショナル・フェローシップ(2012)等受賞多数。著書に『現代建築家コンセプト・シリーズ1 藤本壮介――原初的な未来の建築』(INAX出版)、『藤本壮介読本』(A.D.A. EDITA Tokyo)等。
平田晃久 Akihisa Hirata
建築家。1971年大阪府生まれ。1994年京都大学工学部建築学科卒業。1997年同大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務の後、2005年平田晃久建築設計事務所設立。現在、東北大学特任准教授、京都大学、東京大学にて非常勤講師。
主な作品に「桝屋本店」(2006)、「alp」(2010)、「Bloomberg Pavilion」(2011)、「Coil」(2011)、「Panasonic “Photosynthesis”」(2012)等。SDレビュー朝倉賞(2004)、第19回JIA新人賞(2008)、Kaohsiung Maritime Cultural & Popular Music Center国際コンペ二等(2011)、Elita Design Award(2012)等受賞多数。著書に『現代建築家コンセプト・シリーズ8 平田晃久――建築とは〈からまりしろ〉をつくることである』(INAX出版)等。
畠山直哉 Naoya Hatakeyama
写真家。1958年岩手県陸前高田市生まれ。筑波大学芸術専門学群にて大辻清司に薫陶を受ける。1984年に同大学院芸術研究科修士課程修了。以降東京を拠点に活動を行い、自然・都市・写真のかかわり合いに主眼をおいた一連の作品を制作。国内外の数々の個展・グループ展に参加。2001年には中村政人、藤本由紀夫と共にヴェネチア・ビエンナーレ日本館にて展示(コミッショナー:逢坂恵理子)。2011年東京都写真美術館にて、津波被災後の故郷陸前高田の風景を含めた展覧会「畠山直哉展 ナチュラル・ストーリーズ」を開催。同展覧会は、ハウス・マルセイユ写真美術館(アムステルダム)、サンフランシスコ近代美術館に巡回した。著書に『気仙川』(河出書房新社)等。