出展者について
出展者メッセージ
手の痕跡
もし建築に完璧さだけを追い求めたとしたら、まぎれもなく、機能に研ぎすまされ、冷たく味気ない空間になるであろう。そして、無駄という掴みどころのない言葉の範疇には、人間の生に何か非凡なもの、あるいは空間の本質みたいな何かがあるようだと、常々感じてきている。
空間の深い意味において、機能からではなく、人間の本能のような、人がそこに存在するだけで生気が張りつめる空気みたいなものが流れる。そんな空間は、機能優先の空間には見ることはできないであろう。しかるに、建築家の心眼というものに頼るしか手はない。
また、人間の思索を深める空間と造形のピュアリティーは、その土地の伝統の文脈の自然なる抽出と、作者の強靭な祈りをこめた造形感覚と自由な思想が基底になくてはならないと思う。
(『SPACE』2006年1月、458号掲載「建築家の心眼」より抜粋)
伊丹潤の遺した言葉である。
日本と韓国の二つの国の境界に立ち、建築だけには留まらず、現代美術、書などの作品を遺し、韓国李朝文化にも精通した孤高の建築家。亡くなる前日までスケッチを描き、自らを最後の手の建築家であると語っていた。
今回の展覧会では、スケッチ、ドローイングなどを通して、少しでも多くの人に、伊丹 潤の世界をあらためて感じ取っていただきたいと願っている。
ユ・イファ(ITMユ・イファ アーキテクツ代表)