出展者について
出展者メッセージ
スタディとリアル
僕にとって建築をつくることは、現実に学び、現実を押し広げることである。
大学で建築の設計を学び、設計事務所で実務を学び、自分で設計活動を始めても学ぶことが終わらないどころか、建築を考え、つくるうえで、学ぶということがますます切実なものになった。「学ぶ」には、LearnとStudyがある。Learnは教えを受けて修得するという意味であるのに対し、Studyは「学ぶことそのもの」を意味する。能動的なニュアンスがStudyには含まれているようだ。研究とか努力とか習作といった意味ももつ。建築の世界では「スタディ模型」など設計のなかでつくられる試作という意味で使われるが、自分がつくった案を客観的に眺め、考え、改め、育てていく行為は、まさに自ら能動的に学んでいくプロセスでもある。自分の案を育てると同時に、自分自身を成長させようとしている。なかば無意識のうちに、現実のプロジェクトを通して自分自身を乗り越え、新たな自分を開こうとしている。そこまで来てようやく、思いがけない新たな現実が立ち現れてくる気がする。現実に学ぶことと現実を押し広げることは表裏一体だ。
この展覧会を機に、東日本大震災で被害を受けた石巻市のある幼稚園に建築を贈るプロジェクトを立ち上げた。とても小さな建築を設計し、TOTOギャラリー・間の中庭に建て、会期後にそれを幼稚園に移築する。今回の震災のような「想定外」の前では、修得したこと=Learnだけで対応することが困難であることを僕達は経験した。震災に限ったことではない。複雑で不確かな時代だとされるいま、その都度問いを繰り返しながら現実のプロジェクトに自ら迫っていくという姿勢、Studyが不可欠なのではないか。
学ぶということが、現実につくることの質を高めてくれる。展覧会では、僕がこれまで設計してきたプロジェクト、および石巻のプロジェクトにおける、StudyとRealの絶え間ない応答を見てもらいたいと思う。
長谷川豪