TADAO ANDO ARCHITECTURE, 'CHALLENGES - FAITHFUL TO THE BASIS'
2008 10.3-2008 12.20
展覧会レポート
ギャラリー・間 安藤忠雄建築展[挑戦 ―原点から―] 展覧会レポート
レポーター:山代 悟
 
[挑戦―原点から―]と題された安藤忠雄の展覧会は豊富な写真や模型によって、安藤の初期の作品から最新作までを俯瞰できるコンパクトでありながら中身の濃い展示となっている。ギャラリーの下階には国内での仕事が紹介され、上階には多数の進行中のプロジェクトを含めて海外での新しい展開が展示されている。
初期の代表作である「住吉の長屋」「光の教会」は大型のコンクリート製の模型が展示されているほか、「六甲の集合住宅I、II、III、IV」では急傾斜の敷地での困難な工事の様子などが詳しく紹介され、様々なメディアを通してすでによく知っていると思っている作品であっても、毎回新しい発見がある。
上階のギャラリーで展示されている「アブダビ海洋博物館」「モンテレイ大学 RGS センター」は大きな矩形のマスから風を受けた帆の形を思わせるHPシェルの曲面がえぐりとられている。この新しいモチーフは講演会のタイトル「建築をぬける風」にも通じる安藤の新しい造形ボキャブラリーと言えるだろう。

しかし、今回の展覧会の目玉はなんといっても原寸大で再現された「住吉の長屋」だろう。二階建ての住宅を再現しているため、ギャラリー下階の展示空間から屋上テラスにまたがり、ギャラリーの建物に突き刺さるように作られている。一部は本物のコンクリートで壁や階段が再現され、そのほかはベニアで作られている。家具や設備は簡略化されているが、空間の広がりなどをリアルに体験することが出来る。どうしても一度入ってみたいと思っていた中庭の空間は、想像していたより小ぶりだったが、シンプルでありながら複雑な空間体験であった。
この住宅はいわば建築界の「伝説」であり、無数のメディアを通じて繰り返し伝えられ、語られて来た。僕自身、建築学科への進学を考えていた高校生時代にテレビでこの住宅を見たことを鮮明に覚えている。個人住宅であるために実際に訪問することがきわめて困難なだけに、これは見逃すことの出来ない、貴重な機会だと言えるだろう。

この「原寸住吉」をギャラリーと中庭にまたがって作るために、ギャラリーと中庭との間のガラスの一部は取り外され、自由に行き来をすることが出来る。これまでギャラリー・間での様々な展示を見て来たなかでも、ギャラリーの内外を魅力的に使い分けた展示や、内外の仕切りを感じさせないような展示はたくさんあったが、ガラスそのものを取り外してしまった展示というのは初めてではないだろうか。
サッシのガラスは交換のために外せるように作られているのは建築関係者であれば当然知っている。しかしそれを展示の際に「やってしまう」ことはない。もちろん予算の問題や、セキュリティの問題などもあるだろうが、それは最初からある「壁」であり、受け入れるべき「条件」だと考えるからではないか。

「展示を見に来るのであれば、ぜひ雨の日に来てみてください。住吉の中庭に雨が降りますから、ギャラリーの中に雨が降っているみたいで面白いですよ。」安藤さんはとても楽しそうに学生に語りかけていた。

安藤建築の魅力はたくさんあるだろうが、行政、企業、住民、施工者などを渦の中に巻き込みながら、普段超えることの出来ない壁と考えられているものを(端から見ると)軽々と超えていく、建築が構想され作られていく過程のダイナミズムもその一つだろう。その渦に巻き込まれている間は大変な苦労を味わうだろうが、気がついたら自分では思っても見なかったところまでたどり着いていた、プロジェクトに関わった人々の感想はそんな風ではないだろうか。今回の展示のガラス一枚の取り扱いにも、そんなストーリーを思い浮かべてしまう。
閉塞感の漂う現代の社会において、建築(家)界に留まらず、一般にまでファンをもつ安藤建築の魅力。今回のギャラリー・間での展示は、安藤建築のダイナミズムを実感できる格好の機会となっていると同時に、安藤建築そのものであるといえるのではないだろうか。
展覧会会場風景。中央奥が、「住吉の長屋」原寸模型。

© Nacása & Partners Inc.
アブダビ海洋博物館。大きなアーチが海に続く池をまたぐ。

© Nacása & Partners Inc.
モンテレイ大学 RGSセンター。大学の入口に間口100mの巨大なゲートが建設される予定。

© Nacása & Partners Inc.
住吉の長屋、原寸大模型の中庭。晴れの日には空を仰ぎ、雨の日には傘をさす。

© Nacása & Partners Inc.
住吉の長屋、原寸大模型の中庭ブリッジに立つ安藤忠雄氏。

© Mitsumasa Fujitsuka
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