講演開始間際の会場に滑り込み、今回の展覧会に合わせて出版された作品集『承孝相・張永和 Works:10x2』を手に着席するや否や、パラッとめくり、ぎくりとする。「国境が消える」の文字が目に飛び込む。無論この言葉そのものに驚いたわけでは毛頭ない。つい先日、何をきっかけにしてかは忘れたが、「それでも国境はある」との言葉が自身の頭をよぎったばかりだったからである。国境という枠組みを越えて価値が共有される現代の文化的状況をリアルに描写した「国境はない」という比喩と、「それでも国境はある」というリアルそのものとが交錯した、「国境はあるが国境はない」というアンビバレントな状況の中に、僕らは身を置いている。
勿論、当展覧会を企画した村松伸氏による「国境が消える」という言葉には上記のことは含意されている。講演会冒頭の企画主旨説明において村松氏は、漢字・ハングル・ひらがなが混在する展覧会の象徴的なチラシを基に、「共通性」と「異質性」という言葉でもって端的にこのことを表現した。そのあと、承孝相(スン・ヒョサン)・張永和(チャン・ユンホー)両氏それぞれの発表、そして村松氏を交えた鼎談へと続く形で講演会は行われることとなったが、承・張両氏もまた、「建築」という共通言語でもって国境を越えながらも、いかに「個人」としての異質性を保ち、東アジアの融合を生んできたのかということを、多くのスライドを組み合わせ、実に分かり易く表現した。 |