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版築 |
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張氏のアトリエ「非常建築」 |
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中庭 |
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4階の扉を開けると土と竹の香りがした。この香りの正体は展示室の中央に位置する「土壁」である。「版築(はんちく)」という工法を用いてこの展示室内で「現場打ち」されたものだ。コンクリートの打設と同じように木版の型枠を組み、先端の太い木の工具で土を突き固めて作られた高強度の壁である。北京の別荘プロジェクト「二分割の家」では6mもの高さの自立する壁として実現されている。今回は新たに竹筒が巨大な「セパ穴」の如く挿入され「透過する土壁」にバージョンアップされており、次なる展開に期待が寄せられる。
「土壁」の両サイドには型枠を用いた展示ボードと、同様に型枠を再利用した模型台が配置されている。展示ボードには張氏のアトリエ「非常建築」の仕事を「アートインスタレーション」、「コンセプチュアル・デザイン」、「社会実践」の3つに分類し、それに時間軸を加えマトリックスとして表現している。「非常建築」が10年間でやってきたプロジェクトの数は110。筆者は中国の事情を少しは知る者であるが、中国は今、日本の3倍のスピードで動いている。それに抗うかのように張は、大学の彼の研究室において初源的な「建造」の研究と実践を行っている。張がこのように批評的立場を保持しながらも、そのすさまじい規模と数のプロジェクトを進めているモチベーションはどこから来るのだろうか。展示ボードの中にその答えを見つけることができた。「中国では単に建築の機会に恵まれているだけではなく、今まさに国を作ることに貢献できる。終局的な挑戦に他ならない。」
2人は今、同時期にそれぞれの国においてマスターアーキテクトとして新たな都市をつくっている。承氏の「ブックシティ」と張氏の「Jianchuan Museum Town, Anren, Sichuan」。いくつかのプロジェクトでの協働を通して、2人は共感し互いに影響を与え合うようになった。2つの都市には「環境」というテーマが通底しているのが見いだされる。「全体」に対する「部分」。「秩序」に対する「差異」。東アジアというフィールドにおいて活躍する2人の建築家がつくりだす都市とは如何なるものか。それはきっと、新しいけれど新しくない、見たことはないけれど、我々アジア人にとってはもともと馴染み深いような「環境」なのではないだろうか。
もう一度中庭に降りた。そこでは石を挟み、2人の2つの壁が向かい合っている。それは東アジアの3国が混在し融解してゆく姿のように見えた。 |
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