JR GATE TOWER
名古屋駅をさらに活性化する3本目のタワー
取材・文/大山直美
写真/傍島利浩
2017年4月、名古屋駅前の新名所「JRゲートタワー」が全面開業した。建物は地上46階建てで、オフィス、商業施設、ホテルなどが入居する複合ビル。名古屋駅といえば、よく知られているのが、左右非対称のツインタワーという珍しい形状の駅ビル「JRセントラルタワーズ(以下、タワーズ)」。18年前に完成し、名古屋のランドマークとして主役の座を守りつづけてきた。ゲートタワーはこのタワーズと低層部でつながっており、確認申請上は増築扱い。つまり、隣接するゲートタワーは3棟目に見えるが一体の位置付けだ。
名古屋の中心を担う新ビル
開発にあたった東海旅客鉄道(JR東海)の川合博英さんによれば、もともと敷地には旧駅ビル「名古屋ターミナルビル」があり、その北側にあった旧郵便局舎の建て替え計画がきっかけだったという。名古屋ターミナルビルは1〜2階にバスターミナルがあり、このままでは将来、商業施設として活用しづらい。かたや郵便局は駅とは別の敷地にあるため、駅の外へ出てアクセスする必要があり、改善の余地があった。「両者の敷地の1階にバスターミナルを集約し、2階に駅から郵便局まで直結した歩行者通路を貫通させれば、お互いの課題が解決できる。それで、協力して再開発を行う計画が進みました」と川合さん。
一方、当然ながら本丸のタワーズとも一体感のある設計が求められた。そこで、まず外観のデザインはタワーズと同じく、米国の設計事務所KPFに依頼した。
外観について、大成建設の塩谷尚斉(ひさなり)さんはこう語る。
「タワーズの2棟の白い外壁は名古屋の街で非常に際立っている。ゲートタワーはガラスを豊富に用いながらも縦のフィンを付けることでシャープさを表現し、斜めから見ると白く見えるように工夫しました。タワーズとの一体感を出しつつ、見る方向によって様相が変わるところに新しさが表現できたのではないかと思っています」
また、タワーズの構成で特徴的なのが、15階に「スカイストリート」という第2の地盤を設け、地上と15階をシャトルエレベータで結んだ点。これにより、一度エレベータで15階に上がってから、さらに高層階に上がったり、階下の飲食店や百貨店に下りるという人の流れが生まれた。その結果、集客力が低下しがちな商業上層階にも客を呼び込むことに成功したのだ。スカイストリートをゲートタワーまで延長し、ゲートタワーにもシャトルエレベータを通すことで回遊性をもたせ、第2の地盤の強化を実現したと塩谷さん。
川合さんの話では、タワーズ建設当時は、各フロアで接続するような新しいビル計画はなかったそうだが、あらためて3つのタワーが立ち並ぶ外観を見ると、低層部の横ラインの連続性といい、バランスのとれた高層部の立ち姿といい、あたかも当初から3棟目の建設を想定したかのような整合性が感じられる。
「縦と横の軸線によって、多様な用途を複合したビルであることをうまく表していただけたと思います」とは川合さんの弁。
ゲートタワーの低層の商業エリアのうち、地下1階~8階まではタワーズ内の「ジェイアール名古屋タカシマヤ」を運営するジェイアール東海髙島屋による「タカシマヤ ゲートタワーモール」が出店。また、高層の18~24階までが「名古屋JRゲートタワーホテル」、26~44階がオフィスで、ホテルもタワーズの「名古屋マリオットアソシアホテル」と同じジェイアール東海ホテルズが運営している。
タワーズと、今回竣工したゲートタワーのタカシマヤとホテルの違いについて、川合さんは「タワーズは百貨店もホテルも高いグレードの路線で揃えていますが、今回のゲートタワーではもっと若い方やファミリー層にも足を運んでいただけるよう、幅広い要望に応えたいと考えました」と語る。同じ運営会社にしたのも、両者のバランスを図るといった補完のしやすさや、集客の相乗効果を考えた結果だという。
既存ビルと連携したトイレの配置
今回取材したのは、「タカシマヤ ゲートタワーモール」3階のトイレと、「名古屋JRゲートタワーホテル」の2室。
「タカシマヤ ゲートタワーモール」のトイレは、パブリックトイレ設計に特化した設計事務所として知られるゴンドラが手がけており、階ごとに売り場と呼応させた多彩なデザインが目を引くが、それとともに驚かされるのは圧倒的な広さだ。1カ所あたりの面積は200㎡以上もあり、とくに女性トイレは、ぐるりと見渡せて空きが確認しやすいブースコーナー、手を洗いたい人とゆっくり化粧直しをしたい人が使い分けられるパウダーコーナー、広い授乳スペースなど、いたれりつくせり。さらに、トイレの前には広々とした休憩コーナーも完備した。
川合さんによると、トイレの個数を多く確保するだけでなく、待ち列から個室の空きがすぐ見えるような配置を考えたり、たとえ少々並んでも極力ストレスを感じさせぬよう、タカシマヤ側と設計者のあいだで細かな議論が重ねられたとのこと。
ところで、ここまで広いトイレが生まれた背景には、タワーズとゲートタワーがお互いにバランスを図りながら開発され、かつ同じ運営会社であることで、トイレも一体的に計画できたおかげだと川合さんは言う。
「じつはゲートタワーの低層部はスカイストリートだけでなく、15階以下がタワーズと全フロアつながっています。そのうえで、もともと2カ所あったタワーズ側のトイレを改修して、ゲートタワー側のお客さまにも使いやすくした。その結果、ゲートタワー側に新しくつくるトイレは1カ所に集約できたわけです」
塩谷さんによると、地上75mの15階までの各階をすべてエキスパンションジョイント(構造的に分離するため、建物を緊結せずに接続するもの)でつなぐというのは技術的にも非常に難しいが、それを実現できたことが、2棟を一体的に使ううえでのポイントとなったそうだ。
都市の風景を満喫できる浴室
次に、ホテルでは、標準タイプの「スーペリアツイン」と角部屋の「デラックスコーナーツイン」を見学した。
タワーズ側に高いグレードのホテルがあるため、こちらはビジネス客向けでもありつつ、観光客も満足して泊まれるグレードを目指し、睡眠時の快適性や居心地を追求。遮光や遮音、調湿や脱臭にこだわり、ベッドの寝心地も最高級ホテルにひけをとらないという。
水まわりも充実している。トイレを独立させ、窓越しに都市の風景が満喫できる浴室を設けた角部屋はいうにおよばず、標準タイプの部屋も、隣接した洗面・トイレとの間仕切り壁をガラスにし、両者の内装材を揃えることで、ユニットバスとは思えない広がりを獲得。「水まわりで天井高2400㎜を確保できたのも快適性向上につながっています。コーナーツインのビューバスは外装開口部との取りあいで、防水性を損なわないために地震の際の変形追随性をもたせたり、洗い場のあるツインも浴槽脇の排水口の清掃性に配慮して変更を加えるなど、細かな見直しを行いました。TOTOさんの柔軟な対応力には助けられましたね」と塩谷さん。
グループ会社が一丸となって、名古屋をリードしていきたい想いを結集したプロジェクトだったと語る川合さん。おふたりの話をうかがっていると、ゲートタワーの開発は単なるビル1棟の建て替えや増築ではなく、街全体に影響をおよぼす事業であったことが伝わってくる。また、外観だけでなく、水まわりを含めた空間づくりのそこここに、おもてなしの精神と、リニア中央新幹線開通に向け、名古屋駅全体の開発に想いを込めた姿勢が垣間見える。今後、名古屋からどんな水まわり空間が生まれるのか、楽しみになってきた。
Kawai Hirohide
東海旅客鉄道
事業推進本部
担当部長(新ビル)
※2017年6月30日現在
Shiotani Hisanari
大成建設
設計本部建築設計第二部
設計室長
(文化・スポーツ・複合担当)